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第2話
呂律も頭も、何もかも、正常さというものを、ひと突きごとに奪われていく。
「やぁあ、やっ、あっ、あっ、ひあ、やあぁ、あ」
「ンッ……そうだ、そのまま締め付けていろ」
「っぁあ、あっ、あっ、あっ、あぁあっ」
香蘭が垂らした蜜なのか。それとも龍蓮の先走りが体内で溢れているのか、はたまたその両方なのか。
激しく抜き差しされるたびにぐぷっ、じゅぶっ……と、聞くに耐えない粘着質な音が室内にこだまし、耳朶さえ犯していく。泣き噦る香蘭の肉筒は飲み込むのもやっとだった龍蓮のものを美味しそうに食い締め、激しく蠕動している。
香蘭の身体を持ち主以上に熟知している男による抽挿は、滅茶苦茶なようでいて、確実に香蘭を狂わせる場所を的確に突いてくる上に容赦がない。
背後から右脚を、持ち上げられた。片足で立つことを余儀なくされた身体を肉の楔で易々と繋ぎ止めた龍蓮は、左の脚も持ち上げ、そうされた香蘭の身体は簡単に完全に宙に浮く。
(なんで、こんな事を……あぁ、これは、嫌だ……当たる場所がいつもと違って……っ)
龍蓮の考えていることなど香蘭には分からないことだらけだが、今夜の龍蓮はいつもにも増して考えていることが読めない。
どうにか逃げなけば大変なことになると本能で悟った香蘭は、飛ぶことなどできないのに尾羽をふるふると震わせ逃げようと奮闘したが、たいした抵抗にもならない。
「綺麗な羽根だな、香蘭。お前はどこもかしこも美しい」
ガツガツと腰を叩きつけていた龍蓮が、慎重に探るように、香蘭の胎内を掘り進める。
龍連の屹立は、もう全て飲み込まされている。なのに、彼はまだ奥に入れろと完全に勃起したものを、ねじこむ手を止めない。
「あぁ、どうして……っんぁあ、そ、そんな奥にぃ……やだ……嫌だ。裂ける……やめっ、ぁあ、私のあそこが……ぁあっ」
「大丈夫だ。まだこの先が……ンッ、もっと深い場所がある。そこに胤を注げば、……っ、おそらくお前は私の子を孕む……」
「ッ……?!」
「私に任せておけ。必ず孕ませてやる」
「……い、やだ、……やーーーーひぃいいいいぃ!!」
香蘭が生涯忘れることのないその宣言に等しい囁きと共に繰り出されたのは、執念に塗れた、酷く重いひと突きだった。
ぐぶっ……と、今まで聞いたことのない卑猥な音と共に、体の奥にある未知の場所に、龍蓮の亀頭が嵌り込んだのを香蘭は確かに感じた。
開いてはいけない厳重に閉ざされた扉が、ギシギシと音を立てて開いてしまったのだ。
これ以上無理だと互いにわかるほど密着し、一つに繋がってしまっている。
「ここ、だな……。ここが最奥だ……とうとう到達したか。クククッ……あははは!!」
「……あ、……ぁあ、……あ゛、ぁあ゛」
龍蓮が歓喜の咆哮をあげる。そのわずかな振動でさえ、香蘭には辛く、苦しい。今まで感じたことのない絶望が、すぐそばまで迫っている。呼吸さえ奪われる悦楽の到来の予感に、純然たる恐怖が沸き起こる。
「ここに出してやる。香蘭。お前に俺の子を授けてやる」
「ダメぇ……ぁあ、だめ、そこは……そこだけは許して………」
「もう遅い。全部、全部だ……私の子種をお前に一滴残らず注いでやる……ッ!」
「……アア?!……う、あぁあアアアアーーーーッ!!」
軽く数回揺すり上げららた後、ビュルルルルゥ……と容赦なく吐き出された龍蓮の子種が、腹の奥に向かって注がれる。抱え上げられた両足があまりの事態に硬直し、香蘭は声なき声をあげ大きくのけぞった。
「ーーーッ!~~~~っ!!」
(熱い……ぁあ、熱い……お腹の奥がぁ、……熱いぃ、ぁあァアッ)
自分が何をしているのか、何をされてしまったのか、香蘭はもう考えたくもなかった。
もはや抵抗の一切をやめてぐったりと身を任せてくる香蘭に全てを注ぎ終えた龍蓮は、焦点を怪しくした香蘭を一瞥しつつ、抱え上げた両脚をようやく降ろす。
支えがなくては立つことも出来ない香蘭をひとまず床に座らせ、龍蓮は正面からきつく抱きしめた。
繋がりは既に解かれていたが、あまりに奥へと注がれてしまったせいか、溢れ出すはずの精液は、まだ垂れ出しては来ない。
香蘭の秘部に指を差し込み、それを確認した龍蓮は、満足げに微笑んだ。
「これで、思い残す事はない……。愛しているぞ、香蘭。例えこの愛がお前に受け入れられられずとも、私はお前を愛している。私はあの世で、お前と我が子の幸せを願っている」
何を言われたのか、何を言っているのか、半ば正気を失いかけていた香蘭はすぐには理解できなかった。
(……なにを、言って…いるのだ…?)
聞き逃してはいけない言葉だった気がする。
もう一度言ってくれと、言おうとした刹那ーーー聞き慣れない怒声と共に、ドタバタとけたたましい足音と同じ数だけの人の気配を引き連れた何者かに、ドアが外から蹴破られた。
宮廷の奥深く。家臣であっても来ることを許されない秘匿された場所に、複数の武装した男達が、唯一の出入り口を塞ぐように立ちはだかる。
それを、香蘭はただただ驚きの表情で、向かい合った龍連の肩越しに見つめた。
人ではない。この国の人間ではない獣人ーーー初めて目にする白虎の軍勢がそこにいた。
彼らを率いてきたのであろう、ひときわ大きく、威厳に満ちた精悍な顔立ちの白虎が、一歩、そして、また一歩とゆっくりと香蘭達に向かって歩いてくるのを、ただ静かに見つめた。
「貴殿が龍蓮で間違いないな?」
「ああ、いかにも」
白虎の問いに、龍蓮は振り返りもせず答える。その視線は、慈愛に満ちたその懐かしい光を宿した双眸は、腕の中の香蘭に注がれている。
「我が国への不当な侵略行為を先導した者は誰一人として生かしてはおけない。貴殿が龍蓮で間違いないというのであれば、その命、今ここで頂戴する」
白虎が大きく振りかぶった長剣が、ゆっくりと振り下ろされるのを、香蘭は龍蓮の肩越しにじっと見つめた。
ーーーここから遠く離れた西の都に住むという白虎族が何故ここに?これは夢なのだろうか?
綺麗な軌跡を描いて剣が振り下ろされた瞬間、ごとり……と、鈍い音を立てて、香蘭の足元に何かが転がり落ちる。
どこからともなく吹き上がった赤い飛沫に眼前が染まる。
なにが起きたのか、理解できない。いや、したくなかったのかもしれない。
足元に目を向けると、今まで一度も見たことがないほど満ち足りた表情を浮かべた龍蓮の顔が、そこに転がっていた。
直視したくない現実を、金色の双眸はしっかりと写してしまう。
「あ、あ、あっ、あ、ああぁあ、あ、アアァアアァアーーー!!」
獣じみた咆哮がその場を劈く。
それが己の発した悲鳴だと気がつかないまま、香蘭の精神は限界を迎えた。足元に転がる龍蓮の首を香蘭はその腕にしっかりと抱きしめ、ばたりとその場に頽れたーーーー。
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