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雄蕊(α)

己は何を言われようが構わない。でも主であるゆうが悪く言われるのだけはどうしても耐えられなかった。 うぅ~~ぅ、低い声で唸りながら、くろは歯を剥き出しにしてあやかしたちを睨み付けた。 その時だった。 風も吹いていないのにざわざわと木々が左右に大きく揺れたのは。くろはただならぬ気配を感じ身構え、もののけたちは慌てて四方に散り散りに散っていった。 くろは視線を籔の方に向けると、背中を低くして激しく吠えはじめた やがて籔の中から現れたのは足軽の一団だった。漆黒の色をした陣笠を深く被り、銅鎧を身に付け陣羽織を羽織っていた。銅鎧にある家紋は田村家のものではない。足利二つ引き・・・つまり畠山家のものだった。足軽たちは無言で取り囲むと、刀や長槍をゆうたちに向けた。 「そちが噂に聞きし、岩角山の天眼通の雌蕊だな」 後方から馬に股がった甲冑姿の武将がぬっと現れた。ゆうはその武将が放つわずかな雄の匂いを嗅ぎとり顔色を変えた。番を持たない雌蕊が直感で感じ取ったのはその武将が間違いなく雄蕊(α)ということ。 「わしは畠山義継だ。ほう男の雌蕊か。珍しいな」 獲物を検分するかのように、にやりと薄笑いを浮かべゆうの全身を舐め回すように見下ろす義継。

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