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雄蕊(α)
「わしの側女に召し抱えてやろう。有りがたく思え」
まさに多勢に無勢。それでもゆうには武家の忰に産まれた誇りがある。慰みものにされるくらいなら自決あるのみ。懐に忍ばせていた小刀の鞘に手を置いた。
「そう睨むではない」
義継は手綱を握ると、踵で馬の腹を蹴りゆっくりと歩み寄った。
「仇を討ちたくないか?」
その言葉にゆうは驚き激しく動揺した。
「そなたの母も確か雌蕊だったな。捕らえられ、父の眼前で田村の兵に次から次に手込めにされ、生きたまま火を付けられ焼き殺されたらしいな。父も首を切られ事細かく切り刻まれ、晒し者にされたのだろう」
義継はおもむろに腕を伸ばすと、ゆうの手首を掴み軽々と持ち上げ鞍の上に乗せた。逃げられないよう空いている腕を腰に巻き付けた。あっという間の一瞬の出来事に声を出す暇もなかった。くろは牙を剥き出しにし義継を睨み付け、回りの足軽を威嚇しながらじりじりと詰め寄っていった。そんなくろを冷ややかな眼光で睨み返す義継。「人ならざる者が番とな」ぼそりと呟く声をゆうはしっかりと耳に留めた。やはり、くろが私の番・・・・・・
「まぁ、良い。そちも付いて来い」
戸惑うゆうの事などいっさい気に掛ける事なく、義継はよい獲物が獲れたと上機嫌で城へ舞い戻った。くろはゆうの側から片時も離れようとはせず、義継もそれを咎めなかった。
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