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愛しき番の為なら
「くろ殿」
鶴姫が侍女に命じ持ってこさせた刀と小袖をくろの前に置いた。
「殿は昔、寵愛していた雌蕊の側女を自らの手でお斬りになった。その側女の番は別の人で、その者と密かに密通していたのが殿の耳に入ったのじゃ。殿は側女の首に噛み付き無理矢理番にさせようとしたのだが、激しく抵抗されて・・・名門の畠山家に嫁いできて初めて出来た友がその側女だったのじゃ。わらわはもう二度とあんな辛い思いはしたくない。悔しい思いをしたくはない。くろ殿、愛しい番を守れるのはそち一人、違うか?」
くろは頭 を垂れ、しばし刀を見詰めていた。
「俺たち一族は命の恩人である鬼生田家に代々忠誠を誓い、犬の姿で仕えてきた。落城の際、俺も殿や御方様と一緒に死ぬつもりだった。でも、御方様に、生きろと・・・雌蕊であるゆうを守り、生き延びてくれと頼まれたんだ」
敷居から射し込んでくる柔らかな月明かりに照らされながら、くろの姿が犬の姿から、人型へと変化していく。
もっさりとした漆黒の髪の上に、黒い獣耳がにゅきりと突き出ていて、ふさふさとした長い尻尾を優雅になびかせていた。
年はゆうとさほど変わらない。
「まさか自分の守り神が同い年だと知ったら、がっかりするだろうな。そう思って声色をわざと変えていたんだ」
くろは小袖を手繰り寄せ、意を決したように身に纏った。
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