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ゆうの見た未来
その時――――
眩い光がいきなり目の前で白い爆発をおこしたみたいに明るくなりゆうは目をしばたたいた。
そしてその光の中にある光景が浮かんで見えてきた。
深い海松色をたたえた水面が悠然と流れる河岸で義継が伊達の家紋の陣羽織を着た者の首に刀を押しあてている。
「米沢方、近づなば輝宗を刺殺さん!!」
向こう岸にいる伊達の軍勢に声高に叫び、川を渡ろうとしていた。渡りきれば二本松領だ。
渡河を許しては、もはやなす術はなくなる。
「成実!!政景‼我と共に義継を撃て‼」
輝宗は、側近の伊達成実と留守政景にそう命じた。
彼の足元には赤黒く焼けただれた何千、何万という骸が転がっていて、妖しく蠢きながら輝宗の足にしがみついていた。
「小手森の亡霊どもよ、さぁわしを連れていくがいい」
輝宗の命令に応じて、構えていた鉄砲隊の銃口が一斉に火を噴いた。
あぁ、これはもしや・・・
ゆうは岩角山で義継に言われた事を思い出した。
天眼通の雌蕊。
それがまことなら、これも正夢になる。
「刺さぬのか?」
くくっと嘲笑う義継。
「あなた様は・・・伊達の軍勢に・・・討たれます・・・輝宗様というお方と共に・・・」
「ほぅ」
義継はさほど驚かなかった。
「わしが討たれても、鶴姫と国王丸がおる。それにそちが産むであろう、わしのややが、畠山家を守り抜いてくれようよ」
義継の冷たい掌がゆうの臀部を鷲掴みし、尻肉をやや強引に左右にくつろげると、つつましなく開いた小さな菊座が現れた。
そこを義継の指が蛞蝓のように這いだし、その刹那、ゆうの背筋が凍りついた。
その時だった。
城内がにわかに騒がしくなったのは。
「曲者じゃ‼」
「伊達の間者を探せ‼」
男たちの怒号と、とだばたと走る足音が辺りの静寂を裂いた。
音もなくすっと障子戸が開き誰かが入ってきた。
座敷に立ち込めるかすかに血の味のある匂い。
ゆうはその人物と目が合った瞬間、全身の血が一気に沸点に達するのを感じた。
体中熱くて、おかしい。
下肢の辺りがぞわぞわする。
両方のこめかみが火のように熱く、目の奥がちかちかとしてきた。
雌蕊としての本能がゆうの体の中で覚醒する。
運命の番となる唯一無二の雄蕊の灼熱の塊を求め、体奥にあった子袋が下へと下降をはじめたのだ。
くろは義継に近付くと枕元に刀を突き刺した。
「ゆうを返して頂きます」
それだけ告げると、義継の下からゆうの体を引っ張り出し、横に抱き上げた。
薄い月明かりに照らされ浮かぶのはひとならざぬ者。
不思議とゆうは恐くなかった。
おひさまの心地よい匂い。落ち着く肌の温もり。
いつも側にいてくれる、守ってくれる大事な人のだ。顔かたちが変わろうがゆうには分かった。
「くろ・・・なのか?」
恐る恐る切り出すと、優しい笑顔が返ってきた。
「迎えにきた。岩角山に帰ろう」
ゆうが頷くと同時にくろは風のように駆け出した。
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