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難癖ばかりの獣達 18
「ああああ! やっぱりOSを上げてからキーボードがおかしい!! イライラするー!!」
多田野は突然、頭を抱えて叫んだ。獣人達は多田野の行動に驚いて、目をまん丸とさせている。
あれから、パソコンの入れ替えが無事に終わり数週間が経過した。だが、使うたびに入力した文字を全て消してしまいたいと思うほどパソコンが憎たらしい。
パソコンのリースが五年経ち、OSを上げて強制的に総入れ替えになるのは仕方がないと思うが、パソコン自体が新しいものと入れ変わってしまったため、キーボードの配置やシステムが以前と別のものになっているのが原因のストレスだった。
その影響で社内システムで使う入力業務でのキーボードの指示まで変わっている。
「エンターキーを何回押しても押しても改行してくれなくて動かない! これのせいでいつもより時間がかかってる気がする……!」
多田野はカチカチとエンターキーを恨みのごとく連打するが、画面に映るカーソルは無反応だった。このままだとパソコンを壊しかねない多田野に話しかけたのは羽衣だ。
「もう、何をそんなに怒っているのよ。貸してみなさい」
おしゃべりインコ獣人の羽衣が席を立って多田野のパソコンを触るが上手くいかない。設定画面をクリックして何個もウインドウを開いては閉じていた。
すると、多田野の左斜め前に座るヤギ獣人の八木が声をかけたそうに頭を上げたり下げたりし始めたので、多田野は気になって声をかけた。
「八木さんも入力が変なんですか?」
「いや、変というかボクは松坂さんに言って入力方法を訂正してもらいました」
「松坂に?! いつの間に八木さんと……」
松坂は多田野の同期で一つフロア下のパソコン課にいる。もう一人の上司と一緒に全営業所のネットワーク通信を把握している人物だ。多田野はすぐさま内線で松坂に助けを求めたが、タイミングが悪く二人とも営業所に出張していた。
「あー肝心な時に! 今日はもう仕事しない! 無理!!」
多田野は慣れしたんだノートパソコンを名残惜しみながらデスクにうつぶせで寝る。ある意味、ふて腐れていた。
「うろ覚えですけど、ボクがやりましょうか」
へヘッと笑いながら言った八木しか頼る相手がいない。自分の業務を進めるべく、多田野は八木に頼ることにした。
「お願いします……!」
八木に頭を下げて多田野は言った。八木は立ち上がり椅子に座る多田野の横に立つ。カチ、カチとマウスを動かし、先ほど羽衣が開いた設定画面を開いた。
「ほら、ここまでは合ってた。でもここからが分からんかったんだよね」
羽衣はちょっと悔しそうに拗ねる。
「確か、ここを……」
八木はキーボード入力の設定画面を開き、入力指示を変更していく。設定が終わりログアウトしてから再びログインをすれば入力が以前のように戻っていた。
「八木さん……! 神……!」
以前、電話対応で内容を聞いた時『どうして言わなくちゃいけないんですか?』と言われ、何があっても無視してやると決めていた多田野だったが、一度だけは助けてあげようと考え直す。
(最初はかなり嫌なやつだと思ったけど、本当はいい人なんだ)
「良かったね、多田野くん」
羽衣と八木は席に戻る。多田野は嬉しそうに鼻歌を歌いながら業務を進めた。それをつまらなさそうに見ていたのは豹賀である。
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