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難癖ばかりの獣達 19
今回のパソコンにはDVDプレーヤーが装備されていない。使う業務がほぼないからと会社全体でコストダウンした結果だ。
だが、豹賀は仕事上使うらしく通販でDVDプレーヤーを購入した。箱を開けた途端、獣人達が臭い臭いと叫ぶ。多田野はそこまで臭いと思わなかったので豹賀が差し出してきたDVDプレーヤーを嗅いだ。
「そんなに臭いですか? あ、臭ってきた。あれですね、人工的な臭い」
獣人だから臭いには特に敏感だ。豹賀に至っては眉を中心にクシャリと皺を寄せている。その顔が普段と違ったギャップで多田野は写真を撮りたくなったが、我慢した。
顔をクシャリとさせながら目の前で仕事をするので、多田野は笑いを堪えるのに必死だった。気を紛らわそうと目線を隣に移せば大きなデスクトップのディスプレイが視界に入る。
「熊谷さん、いつまでディスプレイを置いておくんですか?」
多田野を含め他の獣人達はパソコンの入れ替えが終わっているのに、熊谷だけが終わっていない。しかも、熊谷のデスクには新しいディスプレイが置かれ、空いている隣のデスクには以前使用していたディスプレイが設置されている。要するに二画面だ。
「入れ替えが失敗した時が怖いから」
(少ししか獣人課で過ごしてないけど僕は分かる。きっと一年ぐらいは二画面ディスプレイだ……!)
その時、ガッシャーンとキャスター付きの椅子が倒れる音がした。音がした方を見れば八木が椅子を起こしている。
「あーびっくりした!」
八木の右隣に座っていた羽衣が胸に手を当てている。あまりに驚いたのか、羽は最大限に広げられ閉じないまま。八木の左隣に座っている豹賀は目を大きく開けて、八木を睨み付けていた。心なしか豹賀と八木とのデスクの境目は、多田野が獣人課に配属された日の時より大きく距離が空いている。
「え、なんで今倒れたの?」
多田野の記憶では八木は立ち上がることなく座って作業をしていた。それなのに、椅子が倒れる意味が分からない。
「滑りました。へへっ……」
(……やっぱり彼の行動だけは理解できない)
多田野は「そうなんだ」と返事をして業務に戻る。独り言のように戸影部長は「床にワックスをかけてあるから滑りやすいよね」と笑っていた。だが、誰もその後に続かない。八木のこういった周りを巻き込む行動はよくあることのようだった。
「背中シャツ出てるよ」
仕返しと言わんばかりに羽衣が八木の背中を見ながら低い声で言った。獣人課で大きな音を立てるのは危険だ。音に対する制裁はかなり厳しい。
業務に戻ろうとパソコンのディスプレイを見れば、同期の松坂からメッセージが届いていた。
(珍しいな……なんだろう)
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