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難癖ばかりの獣達 20
『なぁ、多田野って豹の人と付き合ってんの?』
「はぁ?!」
多田野は椅子から立ち上がり叫んだ。今度は多田野が座っていた椅子が勢いよく床に倒れて八木と同様大きく音が鳴る。獣人達は一斉に多田野へ目を向けた。
「どうしたの? 多田野くんまで」
羽衣は心配そうに声をかけ、また大きく緑色の羽を広げた。多田野は羽衣に返事を返す余裕は無く、その場に立ち尽くす。
(なんでこうなったんだ……? 何回か石冰さんに待ち伏せされて一緒には帰ったけど会社では普通だったはずだ)
「多田野くん……?」
豹賀が心配そうに多田野を見上げた。豹賀の顔を見て多田野は少し冷静になる。メッセージを既読にしてしまった以上、返事をしなければ不自然だ。
「すみません、八木さんと同じで滑りました」
数秒前に八木が言ったことを思い出しながら言った。倒れた椅子を起こして座り直す。
「もうびっくりさせないでよー。気を付けてね
羽衣は広げた羽を手で無理やり閉じる。羽衣の後ろを部長が通ったからだ。獣人課は部屋の規模が狭いため、羽衣が羽を広げていると通れない。
「本当にすみません」
多田野はいつもの爽やかな営業スマイルでその場を乗り切ろうとしたが顔は強張っている。周りに対する心の余裕は持ち合わせていなかった。
『ううん、付き合ってなんかないよ。誰から聞いた?』
(情報源がどこからか確認しなくちゃ始まらない)
『インコの人』
(羽衣さんかああああ)
叫びそうになったが耐えた。手を組みながら顔を下に向ける。考え込むフリをしながら多田野は唇を噛み、怒りに震えていた。
(どうする? 松坂が知っている、ということは会社全体には伝わっているはずだ。今更、口止めしたってもう遅い……どうすれば……)
多田野は必死になって解決策を練っていれば、また松坂から新着メッセージが届く。
『あとさ、これも噂なんだけど多田野ってΩなの?』
(え……)
頭の中が真っ白になった。なぜ、Ωということまで噂になっているのか分からない。それに、Ωであることがバレれば経歴詐称でクビにはならないと思うが減給は免れない。
だが、減給よりも恐ろしかったのは学生時代に味わったΩであることへの差別。あのセクハラ紛いの地獄を味わうかと思うと顔が真っ青になった。
(またあの侮辱を味わうのか……せっかく誰も知らない土地に来て就職したのに、また僕は同じ人生を歩むのか……)
就職して新しい自分になれた。そんな楽しかった日々が走馬灯のように頭の中で流れる。獣人課で笑った日々が一瞬で無くなってしまう。
(そんなのは嫌だ!! 僕はβだ!!)
『なんでだよ、Ωなわけないじゃん。胃腸炎で休むことはあっても発情期になったところを見たことないだろ。嘘に決まってる。松坂ったら噂に踊らされすぎwww』
多田野は誤爆しないように一文字、一文字を丁寧に打つ。キーボードを押す両手は震えていた。
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