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難癖ばかりの獣達 17

 チャイムの音で多田野は飛び起きた。普段はチャイムが鳴る五分前に羽衣が電気をつけて目が覚めるのだが、今日は気づかなかった。 「すみません、寝過ぎちゃいました」  他の皆は仕事を始めていて、少し出遅れた多田野に羽衣が「慣れないことに疲れていたのよ」とフォローをいれる。 「大丈夫よ、昔寝てるのを起こさなかったら一時間ぐらい起きなかった人いたから」  さらりと普通に羽衣は言った。熊谷は耳を澄まして聞いていたのか、コクコクと無言で頷いている。豹賀は「あーそんなやつもいたな」と呟いた。 「えっ……! そんな人いたんですか」 (危ない、危ない。危うくその内の一人になるところだった。ってか誰か起こしてあげなよ) 「うん、どこまで寝るのかなーって思ってたら一時間は寝たわね」  好奇心とでも言うべきか多田野もその対象に入らないように、お昼休みに寝ることは極力避けようと決めた。すると、獣人課の受付に誰かが入ってくる。お客さんが少ない獣人課に珍しい。 「こんにちはー……! あ、多田野ー久しぶり」 「あっ!」  獣人課に来たのは、懐かしい同期の松坂だった。パソコンが入った段ボールを抱えながら近づいてくる。 「よっ! メッセージを送っても返事が返ってこないから休みかと思ったけど、元気そうじゃん」    実はさっきまで寝ていました、なんて言えなくて多田野は苦笑いをした。松坂は持っていた箱をデスク側に置くと多田野に「運ぶの手伝ってくれ」と頼んだ。 「うん、わかった」  一緒に廊下まで出て獣人課のドアを閉めると、松坂はフーッと息を長く吐く。 「すごいな、お前。俺、あそこにいると息がつまりそうだ」  見れば松坂の顔はうっすらと汗をかいていた。 「え? そうか。皆いい人達だよ」 「だって俺がエレベーターで来た瞬間、一瞬で空気が変わった気がしたぜ。俺なら無理だね、一日でもあんなところにいたら気が狂いそうだ」 「……そんな言い方しなくても」  確かに最初は見た目にびっくりした。だけど、仕事をサボったりしないし、時々不思議な行動をするけど誰かに迷惑をかけてもいない。ただ、個性が人よりも強すぎるだけだ。あと身体能力が優れている。 「発言には気を付けなよ、ここでの会話きっと聞こえてるぞ」  廊下に出て獣人課に繋がるドアが閉まっていても、多田野達が小声で話す会話は聴力が高い獣人達に聞こえているだろう。 「うっそ、マジで?? うわー俺嫌われちゃったじゃん」  頭を抱えてショックを受ける松坂。エレベーターのボタンを押せば、すでに待機していたエレベーターの扉が開き、二人は乗り込んで三階に降りた。 「そういうこと言うからだろ。自業自得だ……って、何で松坂はパソコンを運びに来たんだ?」  獣人課にはすでにパソコンは設置されている。多田野以外に誰かが来るなんて聞いていない。 「今、会社で使っているパソコンのOSが今年でサービスを終了するんだよ。会社全体的に総入れ替えするから久々に残業記録更新中ー。猫の手も借りたいぐらいだ。それにリースものだから、パソコンを返却しなくちゃいけない。あーめんどくせえ。多田野、獣人課にあるパソコンのデーター移動任せたからな」 「は?」 「いやー俺ってもう嫌われちゃってんじゃん。パソコンを運ぶとこまでは手伝うけど、他のパソコンのセッティングで忙しいんだよね。だから、任せた」 「いやいやいや、俺パソコン持ってないからそんなに詳しくないよ?」 「大丈夫、大丈夫。USB刺してデーターコピーして貼り付けるだけだから。多田野にもできるってファイト!」  有無を言わさず任務を任された多田野。松坂が獣人達に事前にメールを送っていたようで、獣人達は文句を言いつつパソコンの入れ替えを素直に受け入れた。  そこからは多田野の出番。もっと苦労するかと思ったが豹賀の方がパソコンに詳しく、多田野を手伝ってくれる。多田野は頼りになる豹賀に心が揺れ動いた。

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