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難癖ばかりの獣達 16

 熊谷がゆっくりお昼ご飯を食べたあと煙草を吸いに行くのか獣人課から出て行った。熊谷が出て行ったのを確認してから羽衣は多田野に話しかけてくる。 「多田野くん見た? あのクリアファイルの量!! いらないなら営業所にファイルを送り返せばいいのにね」  身を乗り出して多田野に話しかけてくる。興奮しているのか羽をバタバタと羽ばたかせていた。 「そうですね、冬眠する熊みたいだなって思いました」 「いや、リスでしょ。ほおに食べ物貯めるから。そういえば、熊谷さんが白熊くんって昔呼ばれてた話を聞いたことある?」 「シロクマ? 聞いたことないです。熊谷さんって茶色ですよね、何でシロクマなんですか?」  気になって聞き返せば、羽衣はニヤリと嬉しそうに笑って話し始めた。 「ここじゃない営業所にいた時なんだけど、ある人が夜遅くまで残業していたの。営業所は当時二階で、一階が事務所、二階が更衣室として使われていた。その人が、さあ帰ろうかと戸締まりをして部屋を出た途端、誰かが勢いよく階段を駆け上がるのを目撃したの。既に他の人は帰宅していたから従業員じゃない不審者だと気づいた。さすがにそのまま放置して帰れなくて「おい、こらなにやってんだ!」って、後を追い掛けたんだって。二階だから逃げ場がなくて、不審者は更衣室に逃げ込んだ。よし追い込んだ、と更衣室の扉を開ければ、白いタンクトップ一枚着ただけの熊谷さんだったの……」 「え……どうしてタンクトップ一枚だったんですか?」 「そこは誰も触れられなくて謎のままよ……」 「え、そこ一番気になるところなんですけど」 「ふふ、気になるなら本人に直接聞いてちょうだい。答えが分かったら私に教えてね」  羽衣は羽を翻して部屋から出て行く。省エネだから、と部屋の電気を消して行った。獣人課には多田野と豹賀、八木と戸影部長、亀内次長が残されている。  電気が暗くなれば、多田野以外の皆はスヤスヤと眠り始めた。ぷすーぷすー、と八木のいびきが聞こえてくる。獣人達が気持ち良くお昼寝している時に一本の電話が鳴った。  多田野が寝ている皆を起こさないように素早く電話に出ると豹賀宛ての電話だった。 「豹賀さん、お昼寝中にすみません。証券会社からなんですけど……」  多田野が声をかけると機嫌悪そうに目を擦りながら身体を起こす豹賀、元々、豹は夜行性の動物だからか機嫌がかなり悪い。多田野はその眼光の鋭さにビクリと身体を震わせた。 「うぅ……」  豹賀は受話器を手に取り電話に出た。聞こえてくる会話の内容から営業の電話だと気づき、多田野は豹賀に電話を回したことを後悔した。  ハラハラしながら豹賀の電話を見守り、豹賀が受話器を置きながら子機に向かって悪態をついた。 「昼休みにかけてくるなよ、非常識な会社め」  そう言って再び顔を埋めた。顔を見られたくないのか、ティッシュを顔にのせる。ハンカチは尻尾を拭くのに使ってしまい濡れているからだ。スー、スーと寝息が聞こえてきて多田野は自分に向かって怒りを向けられていなかったと安心する。 (今度から気を付けよう……)  多田野はそう決心し、ゆらりゆらりと船をこぎ始める。  

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