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難癖ばかりの獣達 4

「な、何を言ってるんですか……僕がΩだったらここで働いていませんよ」 多田野は後ずさりしながらトイレの出口を目指す。後ろ手にドアを開けようとしたが、運悪くここのトイレは引き戸で足が引っかかり出れない。完全密室となった状態で豹賀と向き合った。 「僕の鼻は誤魔化せない。多田野くんは、Ωだろう?隠していたって分かる」 ジリジリと多田野との距離を詰めていく豹賀。獲物を狙うような足取りで、ひたり、ひたりと近づいてくる。 「そ、そんなはずは……あ、お、思い出した!今朝、発情期の人と会ったんですよ!その時に……「多田野くん。別に、会社へ密告しようと思っていない。下手な嘘はやめてくれ」 「は、はい……」 「Ωだから社会的不利なのは分かる。だが、それに付き合わされる周りの気持ちになってくれ。発情期になれば僕のようなαは、好きでもないのに興奮状態になるヒートを誘発され襲いたくなる。ヒートを理性で抑え込まなければ数が少ない獣人達は社会的に抹殺されるだろう。多田野くんもそういう案件はニュースで一度見たことあるはずだ」 「あ……」 大きくは報道されなかったが、獣人αがヒートを制御できず公然の前で性行為をし、逮捕された事件があった。Ωは高校生の人間で初めての発情期だったため、厳重な注意されたとうやむやになっている。 多田野はうなだれ、バレなきゃ大丈夫だという考えが浅はかだったことを後悔した。 「ただ、獣人課は人手が足りていない。今、多田野くんに辞めてもらうのは僕が困る。去年の年末は死ぬかと思ったぐらいだ。僕もヒートにならないように努力はするから、多田野くんの発情期周期を教えてほしい」 思ってもいない提案に多田野は驚いた。まさかΩだと分かった上で働いていいと言われるなんて思ってもいなかったから。 「え?僕、ここで働いていていいんですか??」 多田野は嬉しさのあまり前のめりになって豹賀に近づいた。豹賀は驚き、後ずさりしながら身体を後ろに傾ける。 「あ、ああ、それほど人手不足なんだ。多田野くんが辞めた後、つぎにいつ人が入ってくるかわからないからな」 「僕の周期は、三ヶ月ごとなんです。薬で周期をコントロールして、ゴールデンウィーク、盆休みと年末休暇に調節してます」 「あと一回分は?」 「それが……厄介なことに突発的なんですよね。元々、βよりだからかその年によってあったりなかったり」 「それは困るな」 「ですよね、面倒くさい身体ですみません」 「いや、別に謝ることはない。身体のことなんだから、自分でどうこうできる問題じゃないしな。ただ、身体に異変を感じたらすぐに僕に言ってくれ。じゃないとこっちの対応が難しい」 「わかりました」 「じゃあ」と豹賀が言ったその合図で、多田野は奥へと進み、入れ替わるように豹賀はトイレから出て行った。 (まさか、獣人からあんなこと言われるなんて思ってもいなかった。仕事だけは迷惑かけないように頑張らなくちゃ) 多田野はトイレで強く決心した。

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