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難癖ばかりの獣達 8

「誠に申し訳ございませんでしたあああ!!」  多田野は豹賀に土下座をした。ようやく、発情期抑制剤が効き始めて正気に戻った時には全てが終わっていた。多田野のスーツについた白濁を綺麗に落とし、会議室の掃除まで豹賀が終わらせている。薬を飲んだ影響で意識を失っていた多田野は更衣室で寝かされていた。 身体を起こせば今まで感じたことがない痛みに襲われた。特に腰。それと同時に豹賀とセックスしたことを思い出し、ぼふん、と顔から火が出るほど赤くなった。 いい年した大人が上司に取ってきてもらった薬をいやだと駄々をこね、豹賀の肉棒をほしいとねだる……発情期中の記憶が脳裏に蘇る。 (な、なんてことを僕は……) セットした髪の毛がぐちゃぐちゃになるほど搔きむしり記憶を消そうとするけれど、忘れようとすればするほど乱れた記憶が再生された。 ――んんん……いやだ、のめない――一回、一回だけでいいから……――やだやだやだ――いーや、僕は見たもん。石冰さんのあそこ膨らんで……。 (ああああああ!あれは違う!!僕じゃない!!) ゴロゴロと更衣室の床で寝転がりながら悶えれば、勢いよくロッカーにぶつかり正気に戻る。 「って、こんなことしてる場合じゃない!っ……いてっ!」 勢いよく身体を起こしたせいで激痛が走った。腕時計の時刻は二時。昼休みが終わってから一時間は経過している。  腰をさすり、冷や汗をかきながら部署に戻れば、戸影部長には豹賀が報告済みで体調不良により更衣室で休んでいることになっていた。 慣れない環境に疲れたのだろうと、戸影部長は多田野を帰らそうとしたのだが、抑制剤を飲み睡眠も十分取れたので、もうすっかり身体の興奮は収まっている。ただ、豹賀とどう顔を合わせたらいいのかわからない。 そして、気のせいかもしれないが、かなり避けられている。少しでも豹賀に近づけば二、三歩距離を取られ一定の距離感が保たれていた。それも何回か繰り返されれば心に突き刺さってくる。  豹賀は心配そうに「帰っても大丈夫だよ」と言うが、頑なに多田野は拒否をする。異動した初日に体調を崩して帰ることが社内に知れ渡ることが嫌だった。 本当は帰りたかった、だけど帰ることは獣人課に対する失礼な行為、それと帰ったことによる弊害を考えると無理にでも会社にいる方がマシだ。 「もしかして、途中で帰ることが誰かに知られたらって思ってるの? 大丈夫だよ、羽衣さんがすでにピーチクパーチク喋り回っているから」 腰をかばいながら資料の整理をしていれば、豹賀がしゅるりと音を立てずに現れた。多田野と豹賀がいる書庫は狭く可動式の棚にはパンパンに資料が入った段ボールが押し込まれている。 そして、棚の上にも資料が置かれ、天井にある蛍光灯スレスレまで積み上げられていた。 「え?」 持っていた資料を床に落とし、段ボールが足の上に落ちる。多田野は声なき悲鳴を上げ、涙目で足の上に乗った段ボールを下ろしながら豹賀を見た。 「あの人、インコだから喋るの大好きなんだよね。それが生きがいみたいな。だから、気を付けなよ、羽衣さんに話した秘密は会社全体に知られるって。本人は小声で話してるつもりでも、よく通る声だからすぐわかる」 「そ、それ早く言ってくださいよー……。昼休みに結構、喋っちゃったじゃないですか……」  ……初日だし、上辺の会話なのでたいしたことは言っていないと思う。いや、そう信じたい。じゃないと、困る。 書庫には多田野と豹賀しかいない。謝罪するなら今しかないと、もう何年も掃除されていない床に這い蹲り土下座をした。 「誠に申し訳ございませんでしたあああ!!」 そして、冒頭に戻る。

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