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難癖ばかりの獣達 9

「なぜ、土下座をする? あれはΩにとって自然な行為だろう? 多田野くんは気にしなくていい。僕も気にしないから。それに、性的興奮を理性で押さえつけられなかったのも事実だ」  そこは汚いからさっさと立ったほうがいいと、豹賀は多田野に手を差し伸べるが、その手を取ろうとはしなかった。Ωだからと同情されるのが悔しかったから。 「あぁ! 違うんです! 発情期の時はいつもわけがわからなくなって……でも記憶はあるんです。いや、いいわけですよね、すみません」  記憶があると言った途端、エッチなシーンを思い出して墓穴を掘る前に会話を終わらせた。これ以上、言葉を連ねると嫌な方向にしかいかないからだ。 「今更、純情ぶるのか変なやつだな」 「うっ……」  豹賀の言葉は強く刺さり、ますます顔を上げられなくなった。フンっと鼻を鳴らして豹賀は多田野に手を差し伸べる。 「冗談だ、ほらスーツが汚れる。立ちなさい」 「はい……」  豹賀の手を握り立ち上がる。豹賀の手は獣のように毛が生えていた。興奮して伸びた爪は整えたのか、短い。 「そういえば、どうして豹賀さんは書庫に来たんですか?」  さっきまで避けていたはずの豹賀がわざわざ多田野がいる書庫まで来ている。よっぽどの理由がない限り密室で二人きりになることは避けたいはずだ。疑問に思って聞いてみれば、豹賀は多田野が落とした段ボールを軽々と持ち上げて棚に片づけている。 「亀内さんが外出先から戻ってきたから紹介しようと思って呼びにきた」 「なら挨拶しに行かなくちゃ」  駆け出した多田野の腕をつかみ、引き留める豹賀。強く腕を掴まれた瞬間、ドキリと心臓が跳ね振り返る。 「スーツについたホコリを落としてからいきなさい」  掴まれた腕を離され下半身を指さされると、黒いスーツがホコリで真っ白になっていた。獣人課に行くからと、第一印象を上げるためにクリーニング仕立てのスーツを着てきた多田野は慌ててホコリを払う。 「うわっ! きたなっ!!」 「だから言っただろう、ここは汚いからって」  払うなら向こうでやってくれ、と言われ多田野は書庫の隅でホコリを払う。パン、パン、と手でホコリをはたけば後ろで豹賀が大きなくしゃみをした。  書庫のカギを閉めてエレベーターで獣人課に戻る途中、豹賀は軽く亀内について紹介する。  亀内は社長の親戚で七十を超えた再雇用の先でも働いている亀獣人。獣人課は時代の最先端を行く部署と設立されたが、ほとんどは社長一族の確定申告や別荘の管理などを行っていた。  どんな人だろう……? と心臓の音が早くなっていったが、今朝とは違い獣人には慣れ始めていたので不安な気持ちよりもわくわくしていた。

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