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難癖ばかりの獣達 14
ボールペンの先が尻尾に触れるたびに耳元で豹賀の吐息がかかる。フッ、フッと小刻みに息が短くなり、心なしか股間に当たるものが硬くなったような気がした。
「く、蜘蛛はどこかに行ったか……?」
不安そうな豹賀の声が聞こえ、抱き締められる力が強くなる。これ以上、変な気が起きない内にさっさと蜘蛛を追い払おうとするが上手くいかない。蜘蛛はちょこまかと尻尾の上を動き回っていた。
「もう少しです……!」
指が攣 りそうになるぐらいに腕を伸ばす。蜘蛛をどこかにやらない限り離してはもらえなさそうで、多田野は蜘蛛がボールペンの先に来るようにペン先を尻尾につけた。そのまま蜘蛛に近づこうと、ツーとボールペンで尻尾の上をなぞれば豹賀は猫のようにゴロゴロと喉を鳴らし始める。
「豹賀さん?! ふざけてる場合じゃないですよ! こっちは必死なのに!」
「ふざけてにゃい! 多田野くんが尻尾の根元をなぞるからにゃあ」
抱きしめ合いながら叫ぶ二人。豹賀は蜘蛛が怖いのか離す気はないようだ。
「にゃあ……?」
今年、三十八歳になる豹賀が猫のように『にゃあ』と鳴く。多田野が疑問に思い同じように繰り返すと豹賀は説明した。
「そこは獣人にとって性感帯で……んにゃあ」
蜘蛛がトコトコと歩くたびに尻尾を刺激するようで、豹賀が喋るたびに、にゃあにゃあと語尾につく。多田野はそんな豹賀をかわいく思えてしまって、ボールペンを空振りし蜘蛛を追い払うフリをしつつ尻尾をなぞった。
「まだにゃのか?」
なかなか追い払えない多田野に豹賀は聞くが、多田野はボールペンで尻尾をつつくばかり。
「蜘蛛が尻尾の反対側に回ってしまって……」
尻尾をつつくことを繰り返していれば、フルフルと豹賀の足腰が震えだし、立っているのもやっとなのか徐々に体重がのしかかってきた。
「おっも……」
これ以上、抱き付かれては命に関わると思い、多田野は蜘蛛を本格的に追い払おうと、本格的にボールペンを蜘蛛に向かって振りかざした瞬間、エレベーターの扉が開いた。
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