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第8話
お父さんの優しい視線とぶつかる。
それからお母さんの方を見ると、少し目が潤んでいる様に見えた。
「柚月、頑張るのよ。いつでも電話していいからね」
「うん…っ」
そう声を掛けられて頷くと、お母さんにギューッと抱き締められた。
するとその上からお父さんにも抱き締められて、その暖かさに僕は元気と勇気を充電して貰った気分だ。
涙が出そうだったけど、心配かけたらダメだと僕はグッと我慢した。
「それじゃぁ、行ってらっしゃい。お母さん達、入学式でしっかり柚月を見てるからね。…楽しい学校生活を送るのよ!」
「うん…。それじゃぁ行ってくるね!」
僕は手を振って、何度も振り返りながら校舎へと向かった。
「……はぁっ」
僕はあからさまに溜め息をひとつ吐いた。
さっき別れたばかりなのに、お父さんとお母さんの優しい顔が浮かんで、早くも寂しさが募る。
まだ始まってもいないのに、僕は早くもホームシックになりかけていた。
校舎へと入れば、それから先はひとりで頑張らなくちゃいけない。
グイッと僕は溢れそうになっていた涙を拭った。
「ぐすっ…うっ、泣いたらダメだ」
よしっ。頑張ろう。
お父さんとお母さんに喜んで貰えるように一生懸命頑張るんだ!
気合いを入れ直した僕は、側にあったブロンズで作られた案内板にある『Ω生徒用入り口』を頼りに、他のΩに続いて校舎を目指した。
「はぁ~それにしても凄いなぁ…」
僕は思わずそう溢した。
圧倒的な存在感を放つ有名建築家が設計しただけある豪奢な建物を見上げながら歩く。
古き善き時代の日本が取り入れた洋風のデザインの建物は、名門校に相応しい貫禄があった。
中央の窓にはステンドグラス、外壁には繊細な彫刻が施され、入り口周りは重厚なデザインで囲まれている。
少しレトロな雰囲気に、僕はタイムスリップしたかのような錯覚を覚えた。
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