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第11話

「はぁっ…。あっ、溜め息ついたら幸せが逃げるんだっけ?…ふうっ」 ダメだと思った側からまたまた溜め息をついてしまう。 そんな僕の視線の先に『お手洗い』の文字が遠くに見えた。 そうだ、トイレに行っとこ。 途中で行けないし。 そう思い僕はみんなの列から外れると、トイレへと小走りで向かった。 Ωの群れから離れると、校舎内は一気に静けさに包まれる。 遠くから誰かの声や足音が微かに聴こえるだけで、まるで隔絶された異世界の様にも思えてくる。 「誰も居ないって変な感じ。それにしても凄いなぁ…」 小走りしていた足を緩めて、早足で廊下の左右を見ながら感嘆する。 大きな古い建物だからか、部屋の配置が贅沢に作られているみたいだ。 資料室が並んでいて、その隣には用具室とかあって幾つか空室も見当たる。 それらを通りすぎて、漸くトイレに辿り着いた。 けっこう距離があったなぁ。 もしかして他の場所もこうなのかな? 門を潜る前から大きな塀が続いているのは分かっていたけれど、中に入るとその大きさがより分かる。 名門校で寄付金も多いから、規模も大きくなってきたという話しだ。 これは教室移動とか気をつけなきゃだ、と思いながらトイレのドアを開けた。 トイレの中は改装してあるらしく、明るく豪華な造りだ。 そこには幸い誰も居なくて、僕はホッとした。 今は気持ちも落ち着けたいから誰も居ない方が有難かった。 僕は安心して目の前の個室に入ると、便座に腰掛けた。 Ωは安全を考えて個室で用を足すことを子どもの頃から教わっている。 なので公共の大抵の場所にも、男女だけでなく男Ω用トイレもあるんだ。 万が一のことがあったらダメだもんね。 …それはヒート経験者だけの危険だから僕には全く関係ないんだけど。 だけどΩという理由だけで危ない事もあるから僕も気をつけてる。 そして済ませた僕が立ち上ろうとした時だった。 キィ…… 「!」 あ。誰か来た。 カツカツカツ ドアを開閉する音と共に靴音がした。

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