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3.俺の従弟のメイド服文化祭と声我慢×××①
親父の弟、俺の叔父が事故で亡くなった。それも、不幸なことに叔父の奥さんはこちらも、子供が小さい頃に病気で亡くなっており、つまり俺の従弟の中学生の一人っ子だけが、その家族の中で取り残された。そうして叔父の葬式の際、様々な言い訳言い分を述べて俺の従弟の皐月くんを押し付けあおうとする親戚等に、男気溢れるベテラン営業マンの父が『皐月くんは家で引き取る!!』宣言をしたために、パッと見ただけでも華奢な麗しの美少年である皐月くん(中学二年生)は、只今俺の実家、東京都郊外にある一軒家に、家族の一員として暮らしている。まあそれだけなら良くある話だ。いや、良くあるかどうかは解からないけれども……とにかく実の所久しぶりに見て天使のようだと思った麗しの皐月くんは、地毛の茶髪、一重瞼のフツメンリーマン(社会人一年生)である俺をロックオンして、俺を狼的な意味で性的に狙う、アクマで鬼畜な中学生であったのだった。
「今度の文化祭、女子に混ざって僕もメイド喫茶するんだ。見にきてくれる?」
「それは……別に、良いけど、」
メイド服を着てベッドで俺に圧し掛かって、飛んだばかりの俺の精液をそのスカートにべっとり付けた麗しの従弟に言われて、最中だというのに妙に冷静に、俺はその誘いを快諾した(因みにこのあと滅茶苦茶××された)。
皐月くんの通う中学校は、結構頭のいい私立校である。彼の両親が亡くなって、我が家に引き取られる際に皐月くんは『お金がかかるから』と言って公立高校への転校を希望したが、やっぱり男気溢れる父が『遠慮なんかするな。家からも通える距離だし、途中で転校ともなれば色々面倒だろう』と言って、そのお坊ちゃまお嬢様中学校に通わせ続けることを約束したのだ。我が家も別にお金に困っていないわけだし、俺もそれには賛成だった。しかし俺が『良いけど』と行く事を快諾した彼の中学校の文化祭は、後に聞くに一般解放というわけではなく、『保護者のみ』という条件付の解放であった。高校じゃないんだから、良く考えればそれもそうだ。しかし俺は、中学生がメイド服を着て奉仕(意味深な内容ではない)する現場に、今年二十三才になる若い男一人で見学にいけるほど、気は強くない。だから、だからだったのだ。まさかそんなに皐月くんがそれを不満に思うとは、鈍い俺には考えようもない事であったのである。
「本当に、俺も付いてきて良かったのか?」
「良かったよかった。てゆーか助かる、折角の休みに悪いなぁ、大輔!」
そう、冴えない一重に茶髪の貧相なモヤシ男である俺『東雲 柳』の隣に、会社に行く時みたいにきっちりした私服(薄手のニットにジャケットなんかを羽織っている)で立っているのは、俺の友人で大学時代のゼミ仲間の『鏑木 大輔』である。大輔はいわゆる正統派イケメンサラリーマンというやつで、学生時代から変わらない、良く整えられた短い黒髪に、かすかに香水なんかを漂わせたモテ男だ。
「聞いた話、この学校の文化祭って保護者のみに解放なんだろ? 俺、お前の従弟の保護者でも何でもねーけど」
「細かいこと気にするなって! だって俺みたいなモテなさそうな成人サラリーマンが、一人で中学生のメイド喫茶なんかに現れたら不審者そのものじゃん」
「それが本音か。てか、今年二十三のサラリーマンが一人でも二人でも変わんなくねぇ?」
「大丈夫だ! お前みたいなキッチリしたイケメンが一緒だったら、女教師でも相手にすればイチコロだから」
「……じゃあ男教師の方は、お前が対応すればイチコロだな」
「は?」
「なんでもない。とにかくじゃあ、行ってみるか」
大輔が何事かぼそっと呟いたのを聞き逃した俺は、シャツに重ねた秋物のニットにチノパンと言った、俺的にはキッチリさせたつもりの私服で曖昧に笑って、大輔とともに保護者達で賑わう私立中学校の校門を潜り、もうすぐイベントも終わる午後二時に校内へと入っていった。
***
「「「いらっしゃいませー」」」
皐月くんのクラスは二年A組で、教室前には華やかなメイド服を着た、まだどこか垢抜けない中学生女子がキャッキャウフフとメイド服に浮かれた高い声で接客していた。保護者と思しきお父さんお母さん世代の人々が、その写真を熱心に撮影もしている。きっとここで俺がスマートフォンなんかを取り出したら、それこそ不審者そのものだ。思って慄いている内、隣りで面倒くさそうにしていた大輔が臆することなく中学生女子に話しかける。
「あー、ちょっと君等。ここに皐月っているか?」
「はいっ?」
若いイケメンの男に話かけられたことで、話しかけられたメイドさんは軽くその頬を染めて声を裏返し、周りの三人はキャーと声をあげて集合する。しかし大輔が『皐月』と言ったことで、メイドさんも大輔の目的に気がついた様子。
「あっ、もしかして東雲くんの従兄のお兄さんですか?」
「あぁ……従兄なのは俺じゃなくってこっちのなんだけど、まあ」
「えっ、お兄さんじゃなくてそっちの人!?」
「こ、こんにちは。皐月くんがお世話になってます」
大輔が俺を指したことで中学生女子は驚きの声をあげ、途端訝しげに俺の姿を上から下までじっくり見定め始める。無理もない。無理もないのだ傷つく必要はない。あんなに麗しい美少年の血縁が、大輔みたいなイケメンじゃなくて俺みたいな地味メンなのだ。訝しく思うのも無理はないだろう。思って苦笑いしていると、大輔の方がムッとしたようで少しだけ目を細める。
「おい。子供だからって、他人のことそんな風に見定めるのは良くないぞ」
「えっ、あ、ごめんなさい!! 意外だったから遂、」
「大輔、良いって。中学生相手に大人げないよ、こっちこそごめんね?」
言って俺は成る丈優しくメイドさんに微笑むと、メイドさんも安心したように『はい……』と笑ってくれた。そんな折、後ろにいたメイドさん達が、教室の中に向かって声をかけてくれる。
「東雲くーん、従兄のお兄さんが見学に来たよぉ!」
「!! 今行く!」
聞きなれた皐月くんの声がしたと思ったら、自宅で一度じっくり(スカートの裏側まで)見た、メイド服姿にウィッグを被った皐月くんが、キラキラした笑顔で教室から駆け足で出てくる。
「柳さんっ、お待たせ! 遅かった……ね?」
「よぉ、皐月。随分な格好してんじゃねえか」
「……は?」
「皐月くん、約束通り来たよ」
「はぁ???」
メイド姿のどこから見ても女子みたいな可愛い皐月くんが、俺じゃなくて大輔相手に盛大に眉をゆがめる。二、三秒ほどじろりじろりと大輔を睨みつけたあと、『あ、あのー』と困っている俺のことも、じと目で僅かに睨み付けてきた。
「柳さん、何、この人? なんで不審者が僕の中学校の文化祭に侵入してるわけ?」
「えっ、不審者はないだろ!? 俺、やっぱり一人で来るのが心細くて、大輔に頼んで一緒に来てもらったんだ」
「そういうことだ」
「ふーん……柳さんがそう言うならまあ、先生に告発するのは勘弁してあげるけど。てゆーかなんで僕のこと呼び捨てにしてるんですか?」
「生意気なガキ相手に、『くん』付けする必要性は感じないからな、仕方ない」
「誰が生意気ですって?」
「誰って、一人しかいないだろ」
そんなバチバチモードの二人(中学生とサラリーマン)に俺は疑問符を飛ばしっぱなしで、しかし『まあまあまあ』と間に入って皐月くんを背にして、どっちかというと宥めやすい大輔に引きつった笑みを向ける。
「皐月くんに大輔、何だよ仲悪いなぁ? 特に大輔、お前やっぱり大人げないぞ」
「俺は皐月の質問に答えてるだけだ、東雲」
「ふん」
この二人、かの日の夜ちょっと俺の自宅で顔を合わせただけだというのに、どうしてこんなに仲が悪いんだろう? 皐月くんが俺の周りの男に厳しいのは(ある程度まあ自分の心に妥協してやっと)わかるけれど、あの温厚な大輔まで? と、俺の疑問は尽きない。人選ミスったな……と思っても、俺がいつでも呼び出せる友人は大輔くらいなのだ。今度は皐月くんの方を向いて、自覚はないが媚びるように首を傾げて、皐月くん曰く(あくまで皐月くん曰く)可愛い仕草で次の行動を促す。
「それより皐月くん、コーヒーくらいは出してるんだよね? 俺、喉渇いちゃったなぁ」
「!! うんっ、すぐに出してあげる! とにかく二人とも、中に入って座って?」
「ありがとう、待ってるよ」
「……猫かぶりが」
「え、なに大輔?」
「なんでもねえよ、入ろうぜ」
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