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4.俺の友達は真面目で優しいイケメンリーマン②

 しかし、である。 「なぁ、どこも空いて無いなぁ、大輔」  自宅に電話して、待ち構えたように電話に出た皐月くんに電車が止まった旨、今日はオフィス街に泊まる旨を説明して(皐月くんは『そう? 暴漢には気を付けてね』と予言めいたことを言っていた)、大輔と共に近くのホテルをしらみつぶしに回って部屋を探す。部長とわやわやしていたこともあり、台風が強くなってきたのもあり、やっぱりホテルはどこも埋まっていて、案外部長の『部屋が空いていないから仕方ない』発言も間違ってはいなかったと、そう思う。大輔は流石に乱れてきた短髪に手をやって『ああ……』と深刻気に呟くから、俺は大輔も自分も鼓舞するようにと、次の言葉を放つ。 「でも、一部屋でも空いてたらさ! 俺は大輔とならダブルでもオッケーだから!!」 「……お前な、」  呆れたような大輔の声と表情のあと、ピン、と来たように大輔が明後日の方向を見て『そうだ』と俺を手招きして、オフィス街の路地の裏に、ずんずんと進んで行く。俺は、通ったことのない道に、迷うことのないようにヒヨコのように大輔の後を付いて行くのが精一杯で、大輔がどこに向かっているのか考えもせず、いつものお花畑の頭で『大輔、なんか穴場でも知ってるのかな?』と考えていた。のだが、 「ほら、着いたぞ。風も強いから、さっさと入ろうぜ」 「う、うん……? え、ここ???」 「まあ、そうだな。いわゆるレジャーホテルってやつだ」 「いや、ラブホのことだろ!! えええ、男二人で?」 「野宿よりマシだろ?」 「うん、まあ、確かに……空いてるかな」 「だから、さっさと入ろう」  言って大輔がツカツカとビジネスシューズの歩みを進めるから、俺もその後を付いて(外回りなどしないから)スニーカーで、意外と小奇麗な路地裏のラブホテルへと、友人と共に吸い込まれていった。 *** 「風に当たって身体冷えただろ、シャワーでも浴びて来い」 「えっ、良いよ大輔から入れって。そうじゃなくても大輔、俺のこと助けてくれたんだし」 「ふーん、だったら東雲。お前、シャワー浴びながら湯船にお湯溜めてくれよ。そしたら俺もすぐ浸かれるだろ」  二人で入った部屋は案外普通のホテルに似た部屋で、ただ照明がムーディーな感じはあったがホッとする。それから大輔の言葉に納得して『そっか、じゃあお先に』とガラス張りで丸見えのバスルームに入って、スルスルゆったりと、金曜であるから明日は休み、くたびれたスーツを大輔に見える前で脱いでいった。ベッドに腰かけて煙草を吸いながら、その光景に大輔が釘付けになっている事にも気がつかずに……。  ……。 「はー、あったまった。大輔、言われた通りお湯ためといたぞ」  さっきの部長への恐怖と週明けの気まずさを忘れたお花畑のモヤシ男フツメンリーマンの俺は、タオルを頭に被って寝巻き代わりにとバスローブを羽織った状態で、ボクサーパンツも丸出しにベッドルームへと戻ってきた。(俺には知らぬことだが)悶々としてベッドに仰向けに、何本も何本も煙草を駄目にしている大輔が『あぁ』と呟いてスーツ姿で起き上がるとギョッとして、眉を潜めて少しだけ視線を逸らす。 「お前な、なんて格好してんだよ……風邪引くだろ」 「え? そうかな??? この部屋暖かいし大丈夫じゃないか?」 「人がどんな思いで……ったく、まあ良い。俺も風呂入ってくる」 「うん、待ってる」 「待っ……!!」  平常心を保とうとしていた大輔だが、俺の何気ない一言にその頬を染める。大輔が頬を染めるから俺は不思議に首を傾げて、それにハッとした大輔はさっさとバスルームに入って行った。俺は煙草は吸わないから、ぼんやりとスマホをいじって、時折シャワーを浴びている大輔の良く鍛えられた身体を見やりながら、肌蹴たバスローブ姿で自分の腹筋胸筋などを比べては『はぁ』と、情け無い、と溜息を吐いて大輔を待っていた。 「上がったぞ」  大きなダブルベッドでウトウトしていた俺は、だらしなくベッドに横たわりながら、そちらもバスローブを着て(大輔の方は前も閉じている)やってきた湯気を纏った大輔を迎えた。 「んー……、おかえり。ふぁあ」 「なんだよ東雲、まだ六時だぜ? もう眠いのか」 「うん、昨日はちょっと皐月くんが、あっ」  おかしなこと(皐月くんに昨晩も無理をさせられたこと)を言いかけてばっと口を塞いで、そっと大輔の顔色を伺うも、大輔は気にも留めない様子で俺の近く、液晶テレビの方を向いてベッドに腰かけて、近くのリモコンを手に取る。俺の言葉は聞かなかったふりで、リモコンを操作する。 「適当にDVDでも見るか?」 「う、うん、」  言って大輔は何気なく(後から思えば誤魔化そうとしていたのかも知れないが)大画面の電源を入れた。すると、 『ああんっ、ひゃんっv んぅ、きもちいいよぉv』  まあラブホテルであるから、中身がそう言う内容である事もあるだろうが、しかし、 「チッ! 今の時代にDVDを一時停止しておくやつがあるかよ!!」 「あ、はは。まあ、言ってもここラブホだからな……そういうこともあるかもね」  たわわなバストをプルンプルンと揺らしながら、女が男にクンニされている場面で、アダルトビデオは止まっていたらしい。気まずげに舌打ちした大輔だったが、こういうものに俺がどんな反応をするのか興味があるのか、DVDを消す前に、チラッと俺の顔色を伺ってきた。クンニが終わって姿勢を変えて、女優が勃起した男のペニスを取り出して、口淫を始める。フェラ……昨日も麗しの中学生(皐月くん)に、無理矢理させられたなぁ、と、死んだ目でAVを眺めていると、意外そうに大輔が、少し笑った。 「なんだ東雲、意外とこういうの、見慣れてるのか?」 「えっ!? あっ、ちがっ……見慣れてるって言うか、なんていうか、とにかく違う!!」 「何、照れてんだよ。俺達だって大人なんだから、こういうもののひとつやふたつ、見慣れててもおかしくないだろ」 「うう、でも本当に、俺、こういうの普段見ないんだぞ?」 「……性欲もてあますだろ、それじゃあ」 「それはその、」  それについては皐月くんに、存分に弄ばれてドライでまでイかされるくらい毎晩のように発散しているから、心配には及ばない。が、そんなこと言えるわけもない。口ごもって頬を染めて、咳払いをして起き上がって、大輔の隣に胡坐をかく。大輔はじとっとそんな俺を見て、液晶画面を見て『まぁ』と仕切り直す。 「普段見ないなら、せっかくだから鑑賞すっか?」 「……べつに良いけど、」 「コーフンして勃たせんなよ」 「意地悪言うなってば!!」 「ハハ、冗談だって」  話している間にもAVの中では展開が進んでおり、女優が男の上に跨っては、腹に手を付き騎乗位でのピストンを開始する。大輔は、再び煙草を吸い始めて黙っている。俺は珍しい男女の性行為に『わわ』と時々声をあげながら、興味津々で画面に釘付けになる。男優のペニス、結構長いな。皐月くんくらいはあるかも。思い出しては昨晩バックで突かれまくったことを思う。思うとお尻がズクズクと疼いて、段々と男優ではなく女優の方に、感情移入していまう。 (……いいな、きもちよさそう)  長いペニスで下から突かれて、奥をコツンコツンと突かれるのだ。麗しく華奢な皐月くんの、気持ちよさそうに歪んだ表情もきっと、騎乗位だったら良く見えるだろう。でも皐月くんよりかは大きい俺だから、こんな体勢だったら潰しちゃうかも、なんて、 「何が『いいな』だよ、東雲」 「へっ!?」 「口に出てるぜ、お前の頭ん中……なぁ」  煙草の火を消して大輔が、バスローブを纏ったままで俺の手を握ってくる。 「お前今、『どっち』に感情移入してるんだ?」 「……っな」  はく、と口をはくつかせる。『どっち』に。つまり、男優にか、女優にか。まさしく俺は……考えている内、大輔のイケメンがアップになってきて、気がついたら、開いたままの口の、下唇をはむ、と咥えられていた。『!!?』と驚いて、固まって、頭の中が真っ白になって、あれ、いま、俺……やっぱり考えている内に、大輔が俺の上半身をベッドに優しく押し倒してきて、大輔の、触れたこともない舌が、普段唇の中に隠れていて良く見たこともない舌が、俺の口内に侵入してきた。

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