12 / 26

5.アクマで鬼畜な麗しの従弟のお仕置きプレイ①

 親父の弟、俺の叔父が事故で亡くなった。それも、不幸なことに叔父の奥さんはこちらも、子供が小さい頃に病気で亡くなっており、つまり俺の従弟の中学生の一人っ子だけが、その家族の中で取り残された。そうして叔父の葬式の際、様々な言い訳言い分を述べて俺の従弟の皐月くんを押し付けあおうとする親戚等に、男気溢れるベテラン営業マンの父が『皐月くんは家で引き取る!!』宣言をしたために、パッと見ただけでも華奢な麗しの美少年である皐月くん(中学二年生)は、只今俺の実家、東京都郊外にある一軒家に、家族の一員として暮らしている。まあそれだけなら良くある話だ。いや、良くあるかどうかは解からないけれども……とにかく実の所久しぶりに見て天使のようだと思った麗しの皐月くんは、地毛の茶髪、一重瞼のフツメンリーマン(社会人一年生)である俺をロックオンして、俺を狼的な意味で性的に狙う、アクマで鬼畜な中学生であったのだった。  の、だが。だが前回、そんな俺をオオカミ的な意味で狙っている男がもう一人、いたのであることが判明したのであった。  黒の短髪に微かな香水、煙草の匂いを漂わせた、スーツが良く似合う背の高いイケメンモテ男、その名も『鏑木 大輔』という。大輔は俺『東雲 柳(二十三)』の、大学時代のゼミ仲間だ。  その運命の日、週末の金曜日に東京は大嵐に見舞われたのだった。会社の業務は急遽五時に終了したものの、その頃には時既に遅し。俺が毎日利用している公共交通機関は全て麻痺。自宅に帰れないからと、俺は俺の会社のセクハラ部長にホテルの部屋(ビジネスホテルのダブル)に連れ込まれそうになり、必死で逃げ出して、そこにやってきたのが近隣の大手企業に勤める大輔であった。俺が上司との泊まり先をラインで大輔に教えたため、俺を心配してダッシュでやってきたという大輔は部長に名刺を差し出して威嚇して、見事俺をセクハラ部長の魔の手から救いだして見せた。そこまでは良かった。二人で代わりになる泊まり先を探して、俺がうっかり『大輔とならダブルでもオッケー』なんて口走ったがために、大輔にうっかりレジャーホテル(と言うかラブホテル)に連れ込まれ、そんなつもりは無かったのに成り行きで、雰囲気に飲まれてムーディーな照明にやられてAVに感化されて、俺はモテ男の大輔その人に、うっかりうっかり従弟の皐月くんによって男慣れした身体を許してしまったのであった。まる。 ――前回の回想に入る。  あれから何度抱かれただろう。気を失うまで大輔とセックスに溺れて、ラブグッズもほとんど使い果たして、気がついたのは次の日の朝であった。ホテルには窓が無いから、朝日も顔を見せてくれなくて、ただダルく重い腰を摩って上体だけを起きあげて、投げっぱなしのスマホの電源を付けては『ああ、朝だ、』と思い知ったのだ。そして、 「よぉ、目ぇ冷めたか、東雲」 「っっ、だい、すけ……」  仲の良い友達の大輔が、ワイシャツにスーツの下を身に纏った状態で、煙草を吸って丸裸の俺を眺めていた。気まずくて、目を逸らして、泣きそうになる。やってしまった。酔っていたわけでもないのに、いや、よっていたら良いかといったらそれは違うが、とにかくやってしまった。涙目になって、『あの、』と何か良くわからないけれど誤魔化そうとした俺の頭を、整髪料を使っていない朝の、無精髭を生やした大輔がぐり、と撫でてくる(俺の方は限りなく髭が薄いため、口元は今日もサッパリだ)。 「無理させたな、腰、痛いだろ?」 「だ、大輔、俺、俺はお前のこと、」 「解かってるよ、友達だと思ってるんだろ」 「……うん」 「はぁ。あのなぁ、まあ、俺もお前が、あんだけ淫乱に育ってるとは思いもしなかったけどよ」 「いんらんっ!?」 「それでもお前のこと、好きな気持ちは変わらないから。これからガンガン攻めてくぜ、覚悟しとけ」 「好きっっ!!?」 「好きでもない男のこと抱くほど、俺の性観念も崩れちゃいねえんだよ」 「っっ!? な、ななな、」  そう、この日こうして、俺は皐月くん以外の男にまた、告白されてしまったのであった。シャワーも浴びて全部洗い流して、皐月くんには見つからないようにと後ろも綺麗にしたからきっと、きっと皐月くんはこの日のことに気がつかない。そう思っていた時期が、俺にもありました。かっこわらえない。 ***  回想は終り。こちらは東雲家の一軒屋、金曜の午後六時過ぎである。俺の麗しの従弟である中学二年生の皐月くんは、俺の両親から宛がわれた彼の私室でスマートフォンをいじっている。皐月くんの中学校は、台風のために午前授業で撤収。皐月くんは交通機関の麻痺に巻きこまれることなく(巻き込まれたとしても、家の親が迎えにいったと思うが)、無事に自宅へと帰ってきていた。そうしてベッドに仰向けになって、夕飯の時間までと、液晶画面を眺めては不穏な独り言を垂れ流している。 「ふふーん。明日から、伯父さん伯母さんは一泊二日の温泉旅行ー。柳さんが帰ってきたら、たっくさん思いっきり、可愛がってあげられるなぁ」  そうなのだ。俺の両親は仲良し夫婦で、ベテラン営業サラリーマンの親父が取れなかった夏休みの代わりに、土日を使って温泉旅行に行く計画なのだ。明日の天気予報は晴れ。台風一過というやつで、旅行の足の心配も無く、皐月くんも俺と二人で留守番をする気満々である。そんな皐月くんがスマートフォンで眺めているのは、いわゆるアダルトグッズの通販サイトであったのだ。 「……へえ、エネマグラ」  ニンマリとかわいらしく真ん丸い目を細めて皐月くんが呟く、それはエネマグラ。男であっても女性のようなオーガズムを感じられるという、ある意味危険な医療器具(あくまで医療器具)の名称である。勿論アダルトサイトにのっているんだから、ED治療の時は勿論、そういう時にも使われる。つまり、前立腺開発の時にも。 「柳さんのお尻はすっかり開発されちゃってるけど、たまにはこういうのも良いよね」  お急ぎ便のボタンをタップして、それから皐月くんは上機嫌、俺には秘密の追跡アプリを立ちあげる。そう、追跡アプリ。恋人同士などでお互いの了承の元にインストールされるはずの、互いの居場所が知れるアプリだ。 「柳さん、今日はどこに泊まるのかなぁ。まさか漫喫とかだったりして」  やっぱりどうしても、皐月くんは独り言が多い。それもこれも彼の生まれ、運命のせいだから仕方ない。しかし皐月くんは俺のスマートフォンに入っているアプリから得た情報に、目を丸めてガバッとベッドから起き上がる。 「えっ」  と、いうのも先ほど説明した通り、俺が(この時の皐月くんには知れぬことだが)大輔によってある場所に連れ込まれているから、である。 「ラブホテル……?」  可愛らしく人形のような皐月くんのお顔が、禍々しいオーラを途端に放ちはじめた、金曜の夜であった。 ***  朝になって、大輔と軽い会話(告白ともいう)を交わしてラブホテルを出て道を別つ際、人通りの少ない路地とはいえきっちりスーツを着込んだ大輔に、こめかみにキスをされた。 「わっ、おい大輔!!」 「昨日のこと、今日言ったこと、絶対忘れるなよ」 「う……」 「良いか、俺だってこれからは遠慮しねえ。お前にも……あのガキにも」 「うう、」 「とはいえ、また気楽に飲みにでもいこうぜ。毎回今日みたいな無理はさせねえし」 「……うん、わかった。また、飲みに行こう」 「おう」  ずっと気まずげに目を逸らしていた俺だから、やっと大輔と目を合わせると大輔は嬉しそうに少年のように歯を出して笑って、俺の頭をひとつ撫でて、路地を出た先の駅方向へと去っていく。本当に、昨晩のこと、夢だったみたいだ。俺、大輔と、セックスしたんだ。夢だったみたいだけれど、朝にバスルームで後ろを綺麗にした際、ゴムもしなかったからドプドプと出てくる大輔の精液に、行為が現実であったことを思い知らされた。溜息をはいて、くたびれたスーツをパンパンと正して、さぁ俺も帰ろうかとした時に『ぐうう』とおなかの音が鳴る。それでやっと気がつく。 (そういえば、昨日から何も食べてない)  冴えない一重瞼を瞬かせて、俺は朝からやっているコーヒーショップにでも寄ろうと、周りの景色を見回す。土曜と言うこともあり仕事人たちは平日ほど多くないが、それでも休日出勤の彼等がちらほらいるオフィス街で、コーヒーショップのサンドイッチを求めて俺は歩き出した。

ともだちにシェアしよう!