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7.イケメンリーマンとドライブデート&星空×××①
両親を亡くした麗しの美少年である従弟の『皐月』くんが、茶髪で一重の冴えないサラリーマンである俺『東雲 柳』の実家に暮らすようになってから、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬がやってきた。俺は当初、皐月くんの父親……俺の叔父の葬儀の際に久しぶりに皐月くんを見た時、実の所天使のようだと思ったのだ。が、しかし皐月くんのその本性はというと、性的な意味で、時には公共機関内で、時には玩具を使ってサラリーマンである年上の俺を弄びに弄びまくる、アクマで鬼畜な中学生だったのだった。
皐月くんの中学校の文化祭があったり、台風に見舞われたりした秋が過ぎて、前述通り冬がやってきた。俺はこの秋、所構わず従弟の皐月くんに迫られるばかりか、大学時代のゼミ仲間で友人であるイケメンサラリーマンの『鏑木 大輔』にまで迫られたりうっかりセックスをしたりしたが、秋の夜長に『一ヵ月後くらいに納車だから、今度ドライブに行こう』と大輔に誘われてから暫く、その大輔とは会っていない。と、いうのも別に『気まずいから』とかではない。年末に入って大輔は、大輔の勤める大手企業内で想像以上に忙しくなってしまったらしく、俺との定期的な飲みにも行けないほど、残業塗れの生活を送っているのだ。彼女もいないから実家で過ごすクリスマスに、(俺の両親から見て)可愛い皐月くんと豪勢なケーキを囲んで食事をした後、当たり前のように俺の部屋で寛いでいる皐月くんが言っていた。
「柳さんってば、鏑木さんと暫くあってないみたいだねえ。クリスマスくらいは一緒に過ごそうとかほざくと思ってたんだけど……あいつもとうとう僕への負けを認めたのかな?」
「負け? てかいや、大輔は最近、倒れそうなくらい仕事が忙しいらしいよ」
「……ふーん。連絡は取ってるんだ」
「まあそりゃあ、友達だから多少気になりはするからね」
「『友達だから』ねぇ」
じと目で皐月くんに見つめられ、それから『今日は聖なる夜だから』とか何とか理由を付けていつも通り皐月くんに流されてセックスをして、おれの社会人一年目のクリスマスは過ぎていった。更に正月にはと言うと、両親に勧められて近所の神社に皐月くんと初詣にいったりして従兄弟同士で過ごし、とにかく皐月くんは満足そうで幸せそうで、彼は今年(というか昨年か)父親を亡くしたというのに、こんなに幸せそうに過ごしてくれて、従兄弟冥利に尽きるなぁ。なんて、皐月くんが俺とのこと(恋人同士みたい、)なんて思っている事には気が付かずに、大輔のことは遠い話のことのように思いながら、正月の元旦も平和に過ごしたのであった。
(ああ、腰が痛い……)
一日の夜は一日の夜で『姫始め』とか何とか言って皐月くんと夜中性交に溺れては、いつのまにやら一月二日。皐月くんは俺の両親に俺たちの関係が露呈しないように、セックスが終わるといつもさっさと部屋に帰って眠りにつくから、今日も一人の朝。俺は寝癖の付いた頭で、七時にセットした目覚ましより早くラインの着信音で目を覚ます。それは六時五十分のことであった。
『明けましておめでとう。お前の正月休みも三日までだろ? 三が日になんだけど、今日の午後、前々から約束してたドライブに行かないか?』
友人の、俺を好いているらしい(一晩を共にしたこともある)大輔からのラインであった。そういえばかの日の飲み屋で『大輔のマイカーデビューにかんぱーい』なんて言ったような言っていないような。その際にドライブに誘われていたのだ。ひと月くらいは過去の話で(同時に酔っ払っていたから)忘れていた。今日は、というか今日も明日も特に用事もない。俺はさっさと大輔に返信する。
『明けましておめでとう! そう、三日までだよ。俺も暇だからおっけー。午後って何時くらい?』
ベッドの上に寝転んだままでそうやり取りしていると、部屋の扉がノックされて、いつものように私服姿の皐月くんがそっとススッと部屋に滑りこんできた。
「やーなぎさんっ。休みだからって早く起きないと……って、あれ、もう起きてる」
「あ、おはよう皐月くん」
「うん、おはよう。朝からスマホなんかいじってどうしたの?」
「ふああ、うん。ちょっと今日の午後から大輔と、ドライブにいくことになって」
「わ、鏑木さんの名前久しぶりに聞いた」
「ふふ、そうだね。大輔も流石に正月は休めてるみたいだよ」
「へえ、全然興味ないな」
因縁のライバルである大輔に対して憎まれ口を叩く皐月くんに苦笑いをしながら、本日午後二時、大輔が俺の自宅まで彼の愛車で迎えに来る旨を決定する。腰を労わって俺は起き上がって、ベッドに飛びのっては『朝勃ちしてないの?』と下品な事を聞いてくる盛んな皐月くんをあしらって、顔を洗いに一階まで降りていった。
***
午後まではお正月らしくだらだらして、午後二時の五分前になると、大輔からのラインが入った。『玄関先に停めて待ってる』。スマホを見てから俺が立ち上がると、リビングでソファーに並んで座っていた皐月くんが、いってきますの挨拶しようとした俺の服の裾を掴んで、いじらしい中学生らしい瞳で上目を向けてきた。
「柳さん、夜には帰ってくるよね?」
「え? そりゃあ夜には帰ってくるよ。ただのドライブだから」
「本当だね? 僕、ずっと待ってるから」
「なんだよ皐月くんってば、大袈裟だなぁ」
「だって、帰って来なかったこともあるから」
「あっ……」
不慮の交通事故で無くなった、彼の父親のことだろう。こう言う時に皐月くんはズルイ、といっては可哀相か。少しだけ不安げに揺れる、いつも強気で鬼畜な瞳がいじらしくていじらしくて、俺は皐月くんの頭を優しく撫でた。
「大丈夫、俺はちゃんと帰ってくるよ」
「……何かと理由を付けて、去年の台風の時みたいに泊まってきたりしないでよね」
「え゛っ!?」
不安げだった瞳はすぐさまネコのそれのようにギラりと光って、鋭く俺を責める様にしてくる。『帰って来なかったこと』って、去年の台風の日のことだったのか!! まあでも、俺があの日家に帰らなかったのは本当だ。皐月くんのいないところで他の男と致していたことも本当だ。皐月くんは今も当然、俺の友人である大輔を警戒しているのである。明後日の方を向いて冷や汗を垂らして、しかし本当に今日はドライブなのだ。疚しいことはない、と思い直して皐月くんを真っ直ぐ見る。
「本当に、帰ってくるってば」
「わかった、信じてる」
「じゃあ、いってきます!」
こうして俺は玄関まで皐月くんに見送られて、関東の真冬だから裏起毛の冬物シャツにダウンベストとジーンズという様相で、寒空の下へと飛び出て行った。
「おう、東雲久しぶり」
玄関を閉めて前をみると、そこには結構大型な黒の車が自宅前に停まっていて、その助手席側に寄りかかって背の高いイケメンの大輔が、濃い色のロングコート姿で立っていた。
「うっわ、でっかい車! なんていうの?」
「え、まあ、SUV車ってやつだな」
「社会人一年目の癖に、大輔やるなぁ。さすが大企業勤務、」
「関係ねえよ。ただちょっと、広い車が欲しかっただけだ」
「ふーん?」
黒のSUV車の助手席に、大輔に促されて乗り込む。中も結構な乗り心地で椅子は革張りで、大輔、本当にどこからこんな金出したんだろう。と、若干疑問にも思うがそれよりも『じゃ、行くぞ』と迷い無く発進した大輔の車の行き先が気になって、俺はシートベルトを急いで締めながら、問う。
「なあ大輔、今日はどこ行くか決めてるのか?」
「お前の希望が無きゃ、高速入ってサービスエリアにでも寄りながら、奥多摩方面だな」
「へー、奥多摩行くんだ。何しに?」
「そりゃ、お楽しみってやつ」
喉を鳴らして大輔はちらりとだけ俺の方を見て、また運転に集中するように前を向く。人の車とはいえ気心知れた友達の車だから、俺は勝手に灰皿の引き出しを開けたが、そこに吸殻はひとつも無かった。
「あれ、煙草吸わないのか?」
「車の中ではな」
「ふーん。車、大事にしてるんだ。まあ、マイカー一号だもんな」
「お前もあんまり煙たいと嫌だろ」
「大輔と一緒にいる内に慣れたから、平気だけど……にしても、急な買い物だったよな」
「何が」
「車。なんでまた急に、こんな良いやつ買おうと思ったんだ?」
「……」
車はウインカーを付けて、住宅街から市街地に出て行く。このまましばらく走ったら、高速への入り口があるはずだ。何気ない会話に特に意味は無かったから、俺は急に黙り込んだ大輔を気にも留めずにラジオをかける。『○○高速ICから○○ICまで、約五キロの渋滞です』。ラジオの声が止んで、若者に人気のJPOPが流れはじめると、大輔はやっと俺の質問に答える気になったようだった。咳払いをして、俺の顔をチラ見して、口を尖らせてまた前を向く。
「お前は、馬鹿みたいだって思うかも知れないけど」
「ん?」
「仕事中以外は四六時中、お前は皐月と過ごしてるだろ?」
「え、皐月くん?」
「俺にできないこと、あのガキにはやりたい放題なんだって思ったらな……探したくなったんだ」
「何を?」
「俺とお前でしかできないこと。お前のために、大人の男としてできること」
「えっ」
「単刀直入に言うと、この車はお前とのために買ったんだよ」
「……」
恥ずかしい。恥ずかしい大輔の口説き文句みたいな台詞に思わず黙り込む。オクチにチャックをして唇を噛んで、恥ずかしさと暫しの沈黙に耐えていると、運転中の大輔が『ハハっ』と笑ってひととき空いた左手を伸ばして、俺の頭をぐりぐりと撫で付けてきた。
「東雲、顔真っ赤になってるぜ」
「やっ、お前が変なこと言うからだろうが! からかわないでくれって!!」
「からかってねえよ。俺が、お前をからかうためにドライブに来たと思ってんのか?」
「それはちがうけど……」
「なら、お前は黙って口説かれとけば良いんだよ」
「うう、」
大輔がハンドルに左手を戻して、それから暫く何気ない沈黙が流れる。ETCを抜けると、そこそこ混んでいる高速道路へと、俺たち二人を乗せた車が入って行った。
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