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3花

 薔薇の甘ったるい香りがして、廻は深い眠りから目を覚ます。天井には和風の照明が吊るされているのが見えた。辺りを見回すと、広々とした和室で、襖で仕切られて様々な小物が置かれていた。和室の中心には、大きな布団が敷かれてその上で、廻は起きたのだった。ふと、自分の身体を見ると上品な生地で作られた白地に薔薇柄が描かれた着物を着込んでいた。 (ここは一体……?)  視線の先に姿見があり、自分の姿を見て驚いてしまった。首には、茨と白薔薇で作られた首輪が巻きつかれていた。他にも、首や腕や足等には痛々しい噛み痕が身体中に残されていて、廻は思い出してしまった。 (そういえば……抱かれたんだった……)  祖父母の家に辿り着いて眠りに着いたはずだったが、次に目を覚ました時には森の中にいた。夜中の森を彷徨って歩き回っていると、小さな社を発見してしまった。その社から封印されていたはずの【花喰い鬼】が現れて、廻を茨で拘束すると何処かへ連れ去った。そうして、花喰い鬼が満足するまで抱かれてしまった。  その事を思い出して、妙に身体が気怠い感じがするのと、与えられる快楽に悦がり女の様に喘いでしまった事に対して、羞恥心から顔を真っ赤に染まらせる。身体は情事の痕を色濃く残していたが、綺麗に身体は清められていた。  ふと、花喰い鬼の姿が無い事に廻は気付いた。もしかして、花喰い鬼がいない今ならば、逃げる事が出来ると廻は考えてしまった。花喰い鬼は廻に対して殺しはしないと言っていた。けれど、花喰い鬼の切れ長の紅色の瞳は、廻に対して愛憎の感情が篭った冷たい瞳で見下ろしていた。その事を思い出して、廻はびくりと身体を震わせる。ここから逃げた方が良いと思ってしまった廻は、身体をのろのろと起こすと襖まで歩いて行き、手を掛けるのだった。襖は自然と開いたので、開いた先を覗いてまた大きな和室が広がっていて、襖で仕切られていた。廻は広い屋敷の中を一人だけで出口を探し求めて、歩き回ったのだった。 *****  何度も襖を開けても、何度も歩き回っても、同じ和室が広がっているだけで一向に出口が見当たらなかった。廻は不安な気持ちがの募り、段々と焦りが出ていた。早く、出口を見つけてここから出たい。もしも、逃げようとした事が花喰い鬼に見つかってしまったら、酷い目に遭いそうだと廻は嫌な予感がした。 (早く、出口を探さないと……!)  自然と早足になってしまい、廻の呼吸が乱れてくる。疲労しながらも、しばらく歩き回っていると、和室の窓の外から庭園が見えた。その庭園は、綺麗な雪の様に真っ白な薔薇の花が咲き乱れていた。幻想的な光景に思わず見惚れていると、廻は思いついた。 (窓の外から出られるんじゃ……?)  廻は急ぎ足で、和室にある窓へと駆け寄った。一刻も早く、花喰い鬼に見つかる前に、窓を開けて外へ逃げ出さないといけない。そう強く思い、窓に手を掛けようとした時だった。 「……っ!?」  廻の首に巻きついていた茨と白薔薇の首輪から、鋭い棘が出てきて廻の首をちくりと刺した。痛みは一瞬で大した痛みでは無かったが、次の瞬間、廻の身体が熱くなってしまう。額に汗が滲みでて、艶っぽい吐息を吐いてしまう。その感覚は、最初に花喰い鬼に薄紅色の液体を飲まされた時に沸き上がった情欲と似ていた。誰にも触れていないのに、触れられた様に肌が敏感になってしまい、熱くて苦しい。 (あ、あつい……)  廻は立っていられなくなり、その場に座り込んでしまう。自分で自分の身体を抱きしめながら、身体に篭った熱を逃がそうと深呼吸を繰り返した。早く、この場から去らないといけない。見つかってしまったら大変な事になると思い、廻は身体を這ってでも動かそうとした時だった。 「逃げようとしたな」  地を這う様な低い声音が耳に届き、廻はびくりと身体を震わせた。恐る恐る背後を振り返ると、花喰い鬼が立っていた。口元は歪に弧を描きながらも、切れ長の紅色の瞳は熱に悶え苦しむ廻を冷たく見下ろしていた。 「あっ……」  廻は思わず怯えて震え上がり、後退りしようとする。けれども、後退っても壁にぶつかってしまい、最早、どこにも逃げ場所が無かった。悠然とした足取りで花喰い鬼は、廻の元へ歩み寄って来る。そうして、立つ事が出来ない廻の腕を強く掴んだかと思うと、横抱きをする。触れられるだけでも、快楽の刺激が走り「んっ」と廻は甘い声を漏らした。 「俺から逃げようとしたらどうなるか、身体に教えてやろう」  目を細めながらも愉しそうに笑んで唄う様に、花喰い鬼は廻を連れて歩いていくのだった。 *****  廻が最初に目覚めた和室に花喰い鬼に横抱きをされながら、連れて来られてしまった。乱雑に廻を布団に落としたので、思わず受け身を取った。柔らかい布団が衝撃を受け止めてくれたおかげで、身体に痛みは無かった。そんな廻を見下ろしながら、花喰い鬼は徐にパチンと指を鳴らした。すると、何処からか出現した茨の触手が、廻の両腕に絡み付いていく。 「や、やだっ!来ないでっ!やだっ!」  廻は怯えた表情を浮かべながら、振り払いながら必死に抵抗しようとする。けれど、茨の触手の方が素早く動き、廻の手首を拘束して捕らえてしまう。茨の触手は天井に向かい伸びていくと、廻の身体を吊るす様にした。廻は身体を引っ張り上げられて、膝立ちになる。 「いい格好だ」  背後から低音が聞こえてきて、廻はこれから行われる行為を想像してしまい、ぶるりと身体を震わせた。

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