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8.『以心伝心、桜』

初めて会ったのはいつだった? 端整な横顔を眺めながらぼんやり考える。何年か前のそう多分季節は、春。 今時のルックスに柔らかな物腰。 「人誑しめ」爽やかな笑顔。 「ん?なんか言った?」 トドメはこの声。 「べ、別にっ」 「今、見てただろ?」 「み、み、見るかよ」 「ふーん、まぁ……いいけどね」 意地悪な顔で 「どーでも」 意地悪な台詞。 なのにオレの心臓は暴れだす。 「なぁーお前、覚えてる?」 そんな訳ないのに尋ねると 「確か……春だったよな」 クスッ。 なんて笑うから…… その後に続く言葉をオレは息を止めて待った。 ※ 天然くらいタチの悪いもんを俺は知らない。 横顔に視線を感じながらその天然と初めて会った日の事を思い出していた。あれは確か、春。 目を閉じれば鮮やかに蘇る出会いの瞬間を覚えているなんて死んでも言う気はなかった筈なのに。ほんの出来心。 「確か……春だったよな」 「えっ」 「ん?」 「べ、別に……何でも」 動揺する姿を見るのが好きだった。 けれどその本当の意味からは逃げて来た。 「なあ、桜見に行こーか?」 俺達の出会いを見ていた 「いいな。桜か!」 あの花の中でなら……きっと 俺は心の奥に隠し続けた想いにそっと触れてみた。

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