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12.『桜の味は秘密のままで』

北川冬馬は勝負好きの、物凄く面倒臭い幼馴染みだ。  今年はラーメン大食い競争から始まり、毎週金曜はカラオケで歌の最高得点を競ったりと様々だ。  そして四月。場所は金曜恒例のカラオケルーム。テーブルの上には、赤いハートがプリントされた可愛らしいグラスに、桃色のポッキーが入れられて置かれている。男子大学生二人にはミスマッチな光景だ。 「桜味のポッキーだって!美味しそう」 「冬馬よ、なぜにこれをチョイスした?」 「ポッキーで勝負と言えば、ジャンケンしてあれでしょ?」  こいつはドヤ顔で何を言っているのだ。俺は深く溜め息を吐き、泣きついてでも勝負を挑んでくる粘着な奴に、渋々承諾した。  冬馬はニヤりと笑い、黙っていれば王子様な顔が、性悪なそれに変わった。  その表情に俺は負かす気満々になる。俺達は睨み合い、最初はグー、と叫んだ。  結果は俺の全勝だった。冬馬の奴、出す手と口の形が一緒になるんだ。どんだけ必死なんだよ。  ポッキーをむしゃこら食べている俺の横で、冬馬はしくしく泣いている。しょうがない。何だかんだ言って、幼馴染みの泣き顔に弱いのだ。 「泣き止んだら、キスしてやるけど」  桜味のポッキーとキスがしょっぱかったのは、秘密だ。

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