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15.『始まりの桜』

『別れよう』 そう言われたのは三日前。 僕を向いていないことは分かっていた。 僕はすぐに答えを返した。うん、と。 なのに、昨年一緒に見上げた桜のもとに、一人足を運んでしまった。 そこでばったりあの人に会うなど思いもせずに。 あの人の隣にはすでに新しい恋人がいた。 僕を認識しながらも、表情一つ変えずに進路を変えるあの人。 こんなにも呆気なく終わってしまう関係だったのかと、僕は楽しそうに肩を揺らす二人の背中を見送った。 僕は目を伏せて、彼らとは逆方向に歩き出す。 頬を伝うものを見られないように俯き、駆けた。 その場からできるだけ早く立ち去りたかった。 なのに、僕は急に現れた壁に激突し、弾き飛ばされ、地面にお尻をしたたか打ち付けることになった。 壁と思っていたのは人で、その人は僕の顔を見て勘違いしたのか、痛いところはどこかと慌てふためきながらハンカチを差し出す。 終いには、ポケットから取り出した苺飴を僕に握らせて、痛いの痛いの飛んでいけ、と特に痛くもない膝を擦ったのだった。 たまらず噴き出せば、その人は目をパチクリさせてから、ホッと息を吐いて言った。 「君は笑っていた方が良い」、と。 その人の後ろで満開の桜がさらりと揺れた。

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