19 / 49
18.『桜の記憶』
「職場の花見なんてめんどくせえだけだよな」
前を行く同期の深見に声をかける。花見の準備でなにがめんどくさいって、酒類が重い。まったくもう、なんで日本人はこんなに桜が好きなのか。
「そうか、俺はおまえと一緒にこうやって準備できて楽しいけど」
悪戯っぽい深見の眼差しにドキッとする。桜の花びらが、色男の肩に落ちている。
「……さっさとうち帰ってモンハンやりてえ……」
「あはは、おまえはそうだろうな」
あいつは本当に、心の底から楽しそうだ。
「あーここここ」
ガムテープで地面に会社の名前が書かれたスペースを見つけて、俺は深見に笑いかけた。
ふたりで買い出した荷物をそこに置く。
「吉友」
名前を呼ばれて振り返る。
「んー?」
振り返ったところにキスされた。触れるだけの、甘い香りの、キス。
「えっ?」
「また来年、またね」
どれくらい経っただろう。後ろから声をかけられる。
「吉友ー?なにぼんやりしてんの?」
同期の近藤だ。
「あれ?深見は?」
「深見って誰?」
「同期の……」
……あれ、誰だっけ?
「なに言ってんの吉友、同期は俺たちだけだろ?」
ざあ……っと風が吹いて、桜が散った。
ともだちにシェアしよう!