24 / 49
23.『cherry』
大型連休に満開を迎えた桜も、今は遅咲きの八重がちらほら咲き誇るだけで地面を桃色に染めていた。
「晴れてよかったな」
空きの多い駐車場に車を停めると助手席の優(まさ)紀(のり)はぐっと身を乗り出して空を見上げた。反らしたあごのラインに美しさに目を奪われているとニコっと笑みを浮かべたままこちらを見る。
「そうだな」
じっと見つめていたのがばれていないだろうかと内心ドキマギしながらも、努めて冷静に頷いた。
長い片思いから始まった恋が実って、初めてのデート。連休明けの最初の週末に選んだのは古のお城への花見だった。
「ずっと来てみたかったんだよな」
トランクから敷物やお弁当を取り出しながら優紀は楽しそうに笑う。
「俺も」
荷物を受け取りながら答える。ずっとお前とどこかに行ってみたかったよ。
ピンクの絨毯を踏むのは心が痛むからとつま先立ちに進む優紀の隣を歩く。ふと指先が触れたと思うといたずらっ子のような視線とぶつかった。
「デート、だもんな」
人差し指の先だけギュっと握る優紀に、ああ、好きだ、と気持ちが溢れた。
揺れる花弁の影で一歩踏み出した。吐息がぶつかる。
初めて触れた唇は桜に負けないくらい桃色に染まった。
ともだちにシェアしよう!