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33.『狂桜』

去年の春に、この桜の木の下に穴を掘って埋めた。土を被せて桜の花びらを敷き詰めれば穴を掘った事なんて誰にもバレない。  今年、また桜の咲く季節になった。  私は去年、穴を掘った桜の木の下で狂い咲く美しい花を見上げた。  いつもの年よりたくさんの花を咲かせた桜。まるで埋めたものを養分にしたみたいに、恐ろしいほど鮮やかな色で咲き誇る。  その穴の上に寝そべって、舞い散る花びらを眺める。  ひらひらと舞う花びらはいつの間にか私の身体を隠して見えなくさせる。  私は動けないまま、桜を見上げていた。  土の下から伸びてきた腕が、私の身体を抱き締めて離そうとしない。  私の身体も養分になって、来年の春には花になり咲き誇る。  貴方は私を許さなかった。私は貴方を許せなかった。  だから貴方が好きだと言った桜の木の下に貴方の愛を埋めた。時が過ぎれば許してくれると思っていた。  許せると思っていた。  でも私も貴方も未だに桜に囚われたまま、動けない。  いつかお互いの罪が許されるその日まで、私も貴方も桜の木の下で眠りましょう。  そして美しく咲いて、舞い散るのです。  ――ひらひら、ひらひら、と。

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