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36.『通り抜けデート』
「桜見に行かへん?」
「桜? もう散ったよね?」
「いーや。通り抜け、今日からやで」
「通り抜け?」
なんだそれ。
「ええから放課後、空けといて」
にっと笑って席に戻った。
転校生の僕に奴はとても親切だ。東京の友達に絶対苛められるぞと脅されたけど、全然そんなことはない。
ただスキンシップが激しくて、よく頭を撫でたり肩を叩いたりする。舌を舐められたこともあった。たこ焼きを食べてやけどしたのだ。
見してみ?と言うから舌を出したらぺろりと舐めて平然と言った。
「ほら、舐めたったからすぐ治るで」
子供扱いされたらしい。まあいいけど。
放課後、電車で天満橋に行った。
「造幣局?」
「毎年一般公開されてんねん。桜言うても八重やで」
川沿いに屋台が並んでいて「デートやな」と奴は笑う。
八重桜はきれいだった。まるいお菓子みたいなピンクのふわふわがたくさん枝についている。
「かわいい感じだね」
「お前のほうがかわいーわ」
時々こういう冗談を言う。
「ホンマ? おおきに」
「大阪弁が上達せんなあ」
アクセントが違ったらしい。
「そういうとこも好きやけど」
「ホンマ? ありがとう」
今度は完璧な大阪アクセントで言ったら、奴はかっこいい顔で仕方なさそうに笑った。
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