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「大丈夫です、ちゃんと食べてますから」 昴はそう言うと笑ってみせた。 「そうか?ならいいけど。たまには俺のことも頼ってくれていいんだからな」 くしゃくしゃと昴の髪を掻き混ぜながら錦城もにこりと笑う。 彼の第二性はβ(ベータ)だ。 普通なら昴がΩと知ると大体の人間が嫌悪を表すのだが、錦城は昴がΩという事を知ってもその態度を変える事なく接してくれる唯一の人間だ。 昴が鷹匠を始めた時も、訓練のコツなんかを教えてくれたし、父親が帰ってこなくなった時も昴の身を心配して色々よくしてくれた。 今でもイベントの情報を教えてくれたり、害鳥駆除の依頼を昴にまわしてくれたりと、さりげなく手助けてしてくれている。 彼のおかげで何度危機を逃れることができたかわからない。 この世の中の人間が皆錦城のような人ばかりだったらどんなにいいかといつも思ってしまう。 「にしても今日はいい天気だなあ。風も吹いてるしいいフライトができそうだ」 「そうですね」 錦城が見上げた先、雲ひとつない晴れやかな空を昴も見上げる。 その時ふと誰かの声が頭に響いた。 「何だこの匂い…まさかΩ(オメガ)の発情期か?」 ドキッとして錦城を見上げると、彼はすでに隣にいる誰かと話をしていた。 キョロキョロと辺りを見回すが、昴の隣にも後ろにも人影はない。 今の声は一体… 一瞬嫌な予感はしたが、競技開始のアナウンスが始まり昴はふるふると首を振った。 とにかく今は競技に集中しなければいけない。 このイベントの賞金には生活がかかっているのだ。 昴は気持ちを切り替えると、再び空を見上げた。 青羽色の翼を広げ大空を舞う大鷹の姿を思い出して、また少し悄然としてしまったのだった。 まずは ルアーパスという競技からだった。 ルアーパスとは擬似獲物のついた紐を大きく振り回し、それを隼が追いかけるというものだ。 一分間の間に鳥がルアーにアタックする回数を競う。 アタックする回数はもちろんだが鷹匠側、つまり昴のルアーを振る技術も加点に入るため少し緊張してしまう。 今日連れてきた隼とは何度かルアーパスの訓練をした事があったが、これがなかなかの気まぐれでルアーに反応してくれない事もあるため些か不安だった。 亜鷹とのようにコミュニケーションが取れればいいのだが、不思議と他の二羽とは会話をする事ができないためその時の隼の気分次第なのだ。 隼は最初のうちはルアーにしっかりアタックしてくれたが、何度もやってるうちに飽きてしまったのかだんだん昴の放つルアーを無視して飛んでいってしまう。 やっぱりダメか… 昴自身が自信がないものだから、隼だってやりにくいに決まっている。 それはわかっているのだが、やはり思うようにいかないと気持ちが焦ってしまう。 「頼む、これには生活がかかってるんだ」 祈るように最後のルアーを振った時だった。 ドクン、と心臓の鳴る音が響くと、全身が雷に打たれたかのように硬直した。 吐いた息の熱っぽさに気づいた時には、すでに身体の芯がじわりと疼いていて瞠目する。 嘘だ、だって予定では三日後のはず。 昴は思わず口元を押さえると蹲った。 まずい。 こんな場所で発情期(ヒート)がくるなんて!

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