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「待て…やめろ、待てってば!」
ベッドの上に押し倒された昴は、鍛えられた男の厚い胸板を押しながら必死に抵抗していた。
二人分の体重がかかったシングルのベッドは重さに耐えきれずミシミシと嫌な音を立てている。
男は昴を軽々と担ぐと小屋のある庭からここまで何の迷いもなくやって来た。
まるでこの家の間取りを知っているかのような足取りで。
そうして昴を壊れ物のようにベッドに下ろすと、今度はいきなり覆い被さってきたのだ。
目的はこっちだったのかと抵抗するが、男は無理矢理身体を繋げようとしているわけでもないらしい。
ただひたすら昴に抱きついて鼻をすんすんと鳴らしながら頭を擦り付けたりしているのだ。
まるで親に甘える子どものように…
一体何がしたいのか目的がさっぱりわからない。
男のおかしな行動と発言に、昴はすっかり惑わされていた。
しかもこの図体のでかい男、あろうことが自分を亜鷹だと言い張っているのだ。
そして自らを番だという。
『運命の番い』
そんなもの蔑まされる事しかない憐れなΩのために、誰かが希望を持たせるために考えた絵空事だ。
そもそも亜鷹は鷹であってこんなでかい図体の人間の男じゃない。
「お前、本当に頭どうかしてるんじゃないのか!?」
昴は暴れながら悪態を吐いた。
しかし、どんなに昴が手足をばたつかせても男は憎たらしいほどびくともしない。
「昴こそいい加減観念しろよ。俺は亜鷹だって何度も言ってるだろ?」
男は昴の耳元に唇を寄せると低い声で囁いてきた。
耳殻を嬲るような甘ったるい声に背筋がぞくぞくと粟立つ。
「気安く、呼ぶなっ…」
耳元を抑えると昴は顔を真っ赤に染めた。
「そもそもどうして名前知ってるんだよ?!お前ストーカーか何かか?!」
昴の言葉に、男は心底呆れたという表情でため息をつく。
何だかバカにされている気がして無性に腹がたった。
「とっとと離れろ、この変態っ!」
思わず振り上げた拳は、いとも簡単に掴まれてしまう。
そのまま引き寄せられると男の端正な顔が近づいてきた。
汚れた格好をしているくせに凛とした綺麗な顔立ちをしていて、不覚にもドキッとしてしまった。
「もう待たない、俺はずっと待ってたんだ」
男はそう言うといきなり唇を塞いできた。
「ん…むっ!!」
カッとなり振りあげたもう片方の手も簡単に止められて、頭上に縫い止められる。
「やめろ」と言うつもりで開いた唇からぬるりとしたものが入り込み、舌を捕らえるとねっとりと絡め取られた。
歯列をなぞられ、粘膜をこれでもかというほど舐め尽くされる。
乱暴なほど唇を貪られて、ようやく解放された頃には息も絶え絶えになっていた。
「はぁ…はぁ…」
飲み込めなかった唾液が顎を伝い、喉元へ流れていく。
「キスって凄いんだな…昴の唇、思ってた以上に柔らかくてたまんない」
男はうっとりした声で囁くと再び唇を塞いできた。
「んんっ!!…んっ」
まだ息も整わないまままた唇を塞がれて、呼吸を奪われる。
今度は先ほどの乱暴な口付けとは違い、甘く味わうように舐られた。
次第に思考が薄れはじめ、昴の身体から力が抜けていく。
どうしてこんな見知らぬ男にぐずぐずに蕩かさているんだろう。
考えれば考えるほどわけがわからなくなり、まともな思考が挫かれていく。
「昴…したい、なぁ、いいだろ?」
甘えた声で頬を摺り寄せてくる男に心臓がドクンと鳴る。
一瞬だが男と瞳と亜鷹の眼差しが重なって見えた。
まさかそんなわけない。
そんな非現実的なことあるはずがない。
昴は今にも蕩けてしまいそうになっていた自分に言い聞かせると体を捩って抵抗した。
「いい…わけ、ないだろ、変態っ」
なけなしの理性を振り絞って思いきり睨み付けると、男は不敵な笑みを浮かべながら薄い唇をペロリと舐めた。
「往生際が悪いな。まぁいい、そのうちいやでも俺が欲しくなる」
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