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昴は朝からの出来事を何度も思い返していた。 今朝は確かに家にいたし、小屋には鍵をかけた。 亜鷹が昴と意思疎通ができるとはいえ、足革を外して扉を開けるなんて事できるはずがない。 そもそも、あれは亜鷹ではなかったかもしれない。 今日のイベントには大鷹も何羽か見かけたし、見間違いだったという事だってある。 歯の根も合わないほどガタガタと震えながら呟いた。 「…そうだ、きっと見間違いだ、そうだ…」 何度も自分い言い聞かせて、ざわつく気持ちを何とか落ち着かせようとする。 一緒にいることが当たり前だった亜鷹がいなくなるという事は、昴を思った以上に喪心させていた。 いや、絶望といっても過言ではない。 家族や相棒だと思っていたが実際はそれ以上の存在で、自分にとって亜鷹とはただの鷹と鷹匠の関係ではない事に気付いた。 昴だけがそう思っているのかもしれないが、兄弟とかそんなものよりずっと深いところで繋がっているようなそんな気がする。 それを何と呼んでいいかはわからないが、昴にとって亜鷹は特別で大切で唯一無二の存在なのだ。 錦城に自宅まで送ってもらった昴は、祈るような気持ちで鷹小屋に駆け込んだ。 いつものように止まり木に留まって、羽を寛げている亜鷹の姿がそこにあると信じて。 しかし、そこにあったのは無情な現実だった。 扉の鍵は外されていて、小屋の中に亜鷹の姿はなかった。 抜け落ちた羽が残る止まり木には、点々と血痕が残っている。 足革を外す時に傷つけたのだろう。 やっぱりあれは亜鷹だった。 昴は呆然としたままがくりと膝から崩れ落ちた。 今朝、「外へ行くな」という亜鷹の警告を昴が無視していなかったらこんなことにはなっていなかったかもしれない。 いつもは穏やかな亜鷹がいつになく声を荒げていた。 理由はわからないが、昴がああなる事を感づいていたから止めてきたのだろう。 それなのに自分は頭ごなしに怒ってしまい、亜鷹の警告に耳を貸そうとしなかった。 「亜鷹…ごめん」 そこにない姿に想いを馳せて名前を呼ぶと謝った。 今頃どこにいるのだろう。 もしかしたら深傷を負っていて、どこかで息も絶え絶えになっているかもしれないし、昴の助けが来るのを待っているかもしれない。 悪いことばかりが頭を過ぎり、昴は居ても立っても居られなくなった。 やっぱり戻ろう。 踵を返した時だった。 あるはずのない人の気配を感じて昴はビクリと身体を震わせた。 小屋の外に誰かが立っている。 「誰だ!」 体格から錦城ではない事に気づいた昴は、警戒しながら暗闇を睨んだ。 ザリ…と砂を踏む音がして人影がが近づいて来る。 鷹小屋の薄暗い電球の明かりに照らされて現れたのは見知らぬ若い男だった。 細身で長身だが、服の上からでもわかるほど鍛え抜かれた肉体をしているのがわかる。 真っ直ぐ自分に向けられる男の眼差しに、一瞬怖気づいてしまった。 鋭い眼光がまるで獲物を狙う鷹の眼のようだったからだ。 男の服は所々枯れ草や泥がついていて、決して綺麗とはいえない姿だった。 物盗りか何かだと思った昴はため息をつく。 「言っとくけど、うちに入ったって盗るようなものは何もないからな」 投げやり気味にそう言うと男を睨んだ。 ただでさえ非力なのに、ろくに足が動かせない今の自分は更に分が悪い。 無駄に抵抗するより諦めさせる方がいいと思ったのだ。 それにこんなところで足止めを食らっている暇はない。 すぐにでも亜鷹を探しに行かないと。 「何か欲しいものがあるなら勝手に持っていけばいい」 男の横を通り過ぎようとした瞬間、突然腕を掴まれた。 「足、捻ってたろ」 「…っ、触るな!」 驚いた昴は思わずその手を力一杯振り払っていた。 人に触れられるのがあまりにも久しぶりだったからだ。 逆上して襲って来るかと思ったが、男は振り払われた手と昴を見比べながら不思議そうな顔をしている。 「あぁ、この格好じゃやっぱわかんないよな」 おかしなほど落ち着き払っていている男に、違和感を感じた昴は顔を顰めた。 どうも物盗りにしては違う気がする。 「あんた一体何者なんだ」 昴が訊ねると男はフッと笑みを浮かべた。 近くで見ると、男の容姿が恐ろしく整っている事に気付く。 「俺は亜鷹だ。昴、お前を番にするために戻ってきた」

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