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冷や汗が背中を伝い、全身から血の気が引いていくのを感じる。 「冗談だ、あいつなら生きている。多分な」 犬鷲は冗談だと笑ったが、昴は少しも笑えなかった。 亜鷹がこの世の中から消えてしまったら…そう思うだけで生きた心地がしない。 「しかしまさか稀少(きしょう)な獣人のΩ(オメガ)が、こんな近くで鷹匠をやっていたとはな」 犬鷲は鋭い眼差しを向けると昴を見据えた。 という聞き慣れない言葉に昴は眉を顰める。 「獣…人?」 「なんだ。お前、自分が何者かもわかっていないのか」 犬鷲は喉の奥で低く笑うと羽毛を震わせた。 「普通の人間が鷹や鷲と会話できるとでも思っていたのか?お前は猛禽獣人だ。それもとびきりレアなΩ(オメガ)のな」 「猛禽獣人…?」 混乱する昴に、犬鷲は首をかしげるような仕草をするとゆったりとした足取りで昴に近づいてきた。 「口で説明するよりその眼で見た方が早いだろ。その後はをしながらじっくりと教えてやる」 突然犬鷲が大きく羽を広げたかと思うと、全身の羽毛がブワッと広がった。 驚く昴の目の前で、犬鷲の身体が徐々に大きくなっていく。 そしてあっという間に昴の背丈を超えるほどの大きな鳥になった。 鋭い眼差しはそのまま、今度は犬鷲の骨格がミシミシと軋んだ音を立てて変化していく。 羽毛は抜け落ちて皮膚のようなものに変わり、胴体、手、足、顔がみるみる人の(それ)に変わっていった。 目の前で起こったその怪奇のような出来事にすっかり戦慄していた。 犬鷲(とり)が人の姿になったのだ。 気がつくと先ほどまで犬鷲がいた場所には、一人の男が悠然と立っていた。 「これが猛禽獣人の力だ。俺たちは人にも猛禽の姿にもなれる」 昴は呆然とするしかなかった。 まさかそんな…それじゃあ昨夜、昴の元へやってきたあの男は本当に亜鷹本人だったというのか。 犬鷲は自分の身体の感触を確かめるように拳を握ったり開いたりしながら歩み寄ってくると、昴の首元で鼻を鳴らした。 「雄の匂い…お前、あれと寝たな?なるほど、俺に奪われる前に強引にでも番いにするつもりだったというわけか」 眉間にしわを寄せると、男は昴の腕を掴み強引に引っ張った。 「まぁいい。まだ定着はしていないはずだ、大鷹の雄の印ごと上書きしてやろう」 何処かへ連れて行こうとする男にハッとして昴は必死に抵抗する。 「いやだ…!!」 「いや?これはお前にとって光栄なことだ、犬鷲の子が産めるんだぞ」 男は平然と言うが、昴にはその意味が全くわからない。 「そんなの…僕じゃなくても…」 「猛禽獣人はかつて人間の手によって生み出された、人の遺伝子をもつ猛禽たちの事だ。鷹や鷲を愛した武将のために鷹匠たちが何らかの形で生み出したのが始まりだったともいわれている。しかし獣人たちの力は次第に衰え年々その数は減少しつつある。汚染された環境や発達した文明に肉体がついていかなくなっているのだ。特にΩは元来短命で繊細な気質であるがゆえに、一気にその数が減少してしまった」 犬鷲の男はそう言うと昴の肩をトン、と押した。 力の抜けていた昴はあっけなく地面に転がる。 「人と獣人、獣人と獣の間には獣人が生まれる確率はかなり低い。たとえ生まれたとしても半端な獣人にしかならない。より強い獣人の子孫を残すことができるのは強い獣人αの遺伝子を体内で受け止め、自らも獣人の力を持っている猛禽獣人のΩだけだ」 男は酷薄な笑みを浮かべると、昴の身体の上に跨った。 「…つまり、Ωのお前とαの俺が交われば純粋な猛禽獣人の子が生まれる。それも空の王者といわれる犬鷲の子だ」 「あ…、いや、いやだ!!」 身体を捩って逃げようとすると、捻った足首を掴まれ引きずり戻された。 痛みと恐怖に悲鳴をあげ、必死に助けを乞うが、鬱蒼とした森には人影もなく寂寂としている。 「叫んでも無駄だろうな、ここは滅多に人間が来ない。大人しくしていたら、気持ちよくしてやる。俺のは太くてでかい、きっと気にいるはずだ」 首筋を舐められてぞわりと鳥肌がたつ。 男は昴をうつ伏せにすると、デニムを下着ごと引き摺り下ろしてきた。 強引に尻を開かれ、羞恥と屈辱に涙がにじむ。 「少し広げてやろう。俺の子を宿す大事な身体が傷つくのはしのびない」 グチュ…と水音がして昴の後ろに男の指が捻じ込まれた。 「…っふ…ううっ」 昴は必死に声を出すまいと唇を噛みしめると地面に顔を擦り付けた。 「いやだ…っ、やめ…んんっ」 無理矢理中から抉じ開けられる感覚に、抗えない快楽が込み上げてくる。 気持ちよくなんてなりたくないのに、男の無骨な指を感じ、無意識に快楽を追ってしまう。 一晩でこんなにもあさましい身体になってしまったのは昴がΩだからだろうか。 Ω、Ω…ただΩというだけで付き纏う不運と不幸。 稀少だといわれても、結局Ωはただの子を宿す道具にしかならないのだ。 土と落ち葉と涙で顔を汚しながら頭に思い浮かべていたのは、昴を抱きしめ愛しげに名を呼ぶ亜鷹の姿だった。

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