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カーテンの隙間から差し込む朝日に視界を照らされて、昴は目を覚ました。 いつになくスッキリとした目覚めにガバッと起き上がるやいなや、腰に響く鈍痛に悲鳴をあげそうになる。 「イタタ…」 腰をさすりながら痛みに眉を顰めていると、狭いシングルのベッドがギシ…と軋んだ。 盛り上がった布団がもぞもぞと動いてギョッとする。 昴の隣で誰かが寝ているのだ。 恐る恐る掛け布団を捲ると、そこには昨夜自分を抱いた男がスヤスヤと寝息を立てていた。 ゆうべの事が紛れもない事実であることを突きつけられたようで、愕然としてしまう。 昴は昨夜、初めて男に抱かれたのだ。 しかも見ず知らずの名前もわからない男に… 女じゃあるまいし、初めてを大事にするつもりなんて毛頭なかったが、せめて相手をよく知ってからの方がよかったんじゃないかと心の何処かで誰かが囁いている。 しかし後悔先に立たず、もうやってしまった事は仕方がない。 昴は頭を振ると重い腰を引きずりながらベッドを出た。 床に足をつくと、中に出された精がドロリと溢れ太腿を伝っていく。 「わっ…」 昴はみっともなくしゃがみ込んだ。 このまま警察に突き出してやろうか。 一瞬そう思ったが、やめた。 流されてしまったとはいえ、昨日の行為は決して一方的ではなかったからだ。 途中からの記憶がないが、昴自身男を求めて自ら強請っていたのは確かだ。 これを強姦だといって警察に突き出すなんて流石に良心が痛む。 それにこの男にあんなに触れらたというのに最後まで嫌悪を感じなかった。 昴は人に触れられるのがかなり苦手なのに。 あの匂いのせいなのかもしれない。 ふと夕べ嗅いだあの匂いを思い出した。 今はすっかり消えていてどんな香りだったか表現する事は難しいが、とにかく強烈で濃厚で抗うことのできない匂いだった。 α(アルファ)とは皆あんな匂いがするものなのだろうか? それに昴には確かに。 皆あんな風に匂いが見えるものなのだろうか? 経験の乏しい昴は何が正しくて、それらにどんな意味があるのか全くわからないのだった。 ふと足元に一枚の羽根が落ちている事に気づいた。 昴はそれを拾い上げるとまじまじと見つめた。 何の模様もない真っ白で美しい、鳥の尾羽だ。 しかし亜鷹のものでも、隼のものでもない。 そう思ってハッとした。 「亜鷹!!」 昴は慌てて立ち上がると滴る精を無造作に拭き取り、パーカーとデニムを引っ張り出して着替えた。 亜鷹だ。 亜鷹を探しに行かなければならない。 どうしてこんな大事なことを忘れてしまっていたんだろう。 結局あれから一夜が明けてしまっている。 今でもどこかで昴が助けにくるのを待っているかもしれないのに。 そこでまた思い出した。 昨夜、あの男は自分を亜鷹だと言っていた。 「まさか、な」 昴はもう一度確かめるように眠っている男に近づいて顔を覗き込んだ。 切れ長の瞳は真っ直ぐに閉じられ、長い睫毛が均等に並んでいる。 高い鼻梁に、形の良い唇。 全てのパーツが完璧なバランスで位置づいている。 どこからどう見ても、憎たらしいほど男ぶりの良い人間の男にしか見えない。 昴はため息をつくと、気持ち良さそうに眠る男の顔に乱暴に布団を被せて家を後にしたのだった。 「亜鷹!!!」 イベント会場だった広場に着くと昴は亜鷹の名を呼んでいた。 昨日は観客や鷹匠、パウチに繋がれた猛禽たちで賑わっていた場所だが、今はただのだだっ広い野原になっている。 足を挫いた場所までくると、亜鷹と犬鷲がもつれながら飛んでいった方向を確かめた。 やはり向こうの森にいるような気がする。 昴は捻った足の痛みに顔を顰めた。 やはり処置も何もしてなかったのが響いている。 しかしここまで来て帰るわけにはいかない。 昴は唇を噛むと、舗装されていない森の方へと足を踏み入れた。 複雑に絡んだ木の幹や蔓延った苔に足を取られながら、森の奥深くへと進んでいく。 喉が千切れるほど亜鷹の名前を叫びながら、祈るような気持ちであてもなく歩いた。 茶色の枯れ草が積み上がっているのを見るたびに胸がざわつき、息をのんでしまう。 亜鷹、どこにいるんだ。 お願いだ、無事でいてくれ。 もしこのまま亜鷹に二度と会えなかったらどうしよう。 悪い想像ばかりが頭を過ぎり、ますます昴を不安にさせていく。 その時頭上からガサガサと葉音がして、昴は顔を上げた。 「おいおい、逃げられたと思っていた花嫁が自ら捕まりにくるなんて俺はよっぽど運が良いみたいだな」 太い木の枝に止まっていたのは犬鷲だった。 昨日自ら足革を千切り、昴を襲おうとした錦城の犬鷲だ。 そして、亜鷹と争った相手だ。 「亜鷹…亜鷹はどこだ!!」 犬鷲と会話ができることについては、もはや驚かなかった。 とにかく亜鷹の生存を確認したいという気持ちだけでいっぱいだった。 「亜鷹?あぁ、あの大鷹のことか」 犬鷲は翼を広げて音も立てずに降りてくると、昴をじっと見据えた。 「死んだよ」

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