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アネモネ 第2話

あれから2か月が経った。なし崩し的に居座るようになった山下さんと、俺は狭いアパートで同棲のような生活をしている。 「……あっ、やました、さん、ぁぁっ……」 「…………はぁっ……、向田っ」 山下さんは決まって週末に俺を抱く。 断っておくが、俺の身体を気遣うとか、そういうのはない。 たぶん、押し寄せる不安に耐え切れず、自分を保つために俺を抱いているのだと思う。動物のように腰をぶつけ合い、人間であることを忘れる為に。 本来挿れる場所でないのに、俺の身体は過剰に反応した。山下さんの大きなモノが擦れ、穴を拡げられて、快感に涎をたらす俺も同罪だろう。 半年前、奥さんが家を出て行ったそうだ。ローンが半分以上残ったマンションと、離婚届と少しの家具を残して。 逃げて話し合いに応じなかった山下さんが捨てられたのだ。痛々しくて、その話題には触れることができない。時折見せる虚ろな表情と、口数の少ない様子から、立ち直る気配は微塵も感じられなかった。現実から確実に背を向けて、俺の家と会社を往復している。 「山下さん、そろそろマンションに帰ったほうがいいんじゃないですか?」 行為が終わり、寝ようとする山下さんへ、意を決して声を掛けた。 「そのうち、な……」 「そのうちって、いつ?」 人並みに普通の生活を送ってほしい。会社では頼もしい上司である山下さんに戻ってほしい。 彼の逃避の手段だけで終わりたくないという俺の小さな叫びは、いつまでたっても届かないようだった。 「お前まで俺を急かすのか。だったら明日出ていけばいいんだろ」 「そんなこと言ってません。風呂入ってきます」 喧嘩腰に山下さんが反論するものだから、俺は強制的に会話を切った。シャワーを浴びるため、黙ってユニットバスへ行く。 いつまで経っても離婚を受け入れない山下さんに、心底嫌気が刺していた。会うことが叶わない元奥さんに縋っていないで、俺のところへ来て欲しい。身体だけの空洞な関係ではなく、中身を見て欲しいと何度思ったことか。 でも、こんな状態の山下さんを見捨てることは、もっとできなかった。

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