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アネモネ 第7話
セックスは性欲を満たすものであり、愛を確かめる行為とか言ってる奴は頭が沸いてるのかと思う。
朝帰りの件から山下さんは俺を抱かなくなった。2週間全く触れられていない。もしかしたら俺に飽きたのかもしれない。自分から誘うのも何だか気が引けて、流れ流れて今に至る。
同居が終焉を迎えようとしているのだろう。らしくもなく、少し切なくなっていた。
元々性欲はそんなに強いほうではないが、俺も男である。
久しぶりにセフレと連絡を取ることにした。
大学時代からのセフレである晶(あきら)とは付き合いが長い。特定の相手がいない期間は互いに慰め合うのが常であり、それ以上もそれ以下もない。彼との行為は気を使わなくていいから楽だ。
「それで伊織はいつ別れんの?」
「いつって、最初から付き合ってない」
「すぐにはやめられないか。上司の人、どういうつもりで伊織んちに居候してるんだろ。他人が家にいてウザくないの?自分だったら落ち着かないよ」
「あんまり。慣れた。平日も休日も寝てばっかの人だし、けどもうすぐ終わるだろうから」
「…………じゃあさ伊織、次は俺と付き合ってよ」
「やだ」
「ちぇ、けち。俺はいつでもウェルカムだからね」
ぎゅーと晶に抱きしめられる。晶には長い間片思いしている相手がいることを知っている。不毛な思いを昇華して早く楽になればいいのにと内心思っていた。
「最近アプリで知り合った人がしつこいんだ。俺はタチだから無理っつってんのに、1回試してみれば世界は変わるよって。ほら、このMっていう人」
「だからアプリはやめろって言ってんじゃん。えむ……M……?み、三宅さんじゃん!!」
顔写真こそバッチリ写ってないが、姿形は三宅さんである。あの人、手当り次第に口説いてんのか。
「なんだ。知り合い?」
「いやいや、あの人本当に肉食なんだ……俺も口説かれた。会社の人だよ。エリートっぽい」
「ヤった?」
「ヤってない!!キスだけ」
「伊織のことだから、純情ぶって『ごめんなさい、俺まだ……』って言ってそう。可愛い伊織マジでヤベーもん」
流石晶である。図星だ。ぐうの音も出ない。
「いいじゃん別に。俺がどう反応しようが勝手でしょ」
「Mさんは『危険』と……でもセックスは上手そう」
「それは俺も思った」
「ヤったら教えて。伊織の感想で決める」
「期待しないで。三宅さんに関してはちょっと生理的に無理っぽい。キザすぎる」
「残念……」
キザな三宅さんに鳥肌を立てながら新しい扉を開けてもらうより、気心の知れた晶とセックスしていたほうが全然マシである。
晶とはまた会う約束をして別れた。
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