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第3話

 ♢ 『なんで屋上にいたんだよ』 『……ここの屋上、昼間来てもいつも閉まってるだろう。たまたま、入ってみたいと思ったんだ』  前に狼男がそんなことを言って笑っていたのを覚えていた夜相は、同じ学校にいると予測し、翌日から校内で地位の高い生徒達をジロジロと観察し始めた。  オメガのフェロモンに惹かれたアルファなのだから、勉強や部活でも人よりいい成績を残している可能性が高い。  そういう期待もあって、生徒会や部活動の部長達から狼男を見つけ出そうとしたのだ。  見たらわかる、なんて言い切れないかもしれないが、匂いならわかる。  あれだけ抱かれて、自分の中のオメガの本能が覚えないはずがなかった。 「……夜相、なにしてるん?」 「匂い確認してる」  ぎゅう、と真顔で抱きつき匂いを嗅ぐ夜相を、友人である落町(おちまち)は怪訝な顔で見つめる。  関西弁を操り美術部の部長で芸術展を開催するほどの天才である落町は、わかりきったことだが絵の具の香りしかしなかった。  夜相とて、一応確認しただけで、狼男が普段行動を共にする落町だとは思っていない。  体を離した夜相は、さて次に行こうと何事もなかったかのように歩き出す。 「え、なに? セクハラ? セクハラされただけ? 夜相、登校するやすぐどこ行くん?」 「逃げ出した犬っころ探しにいってくるわ、落町も見かけたら教えてくれよ」  なにがなんだかわかっていない落町に手を振り、夜相は意気揚々と鼻息荒く教室を出た。  ♢  〝三年の夜相が抱きつき魔になってる〟  そんな噂は、夜相が捜索を始めて三日で校内中をかけめぐった。  自由人で破天荒な夜相の突拍子もない行動は校内でもそこそこ有名な話で、今回もそれの一環だろうと笑い話のネタになっている。  当の夜相はといえばまったく成果が出ず、イライラと不機嫌そうに歯ぎしりしながら、今日も校内をふらついて役職持ちの生徒達をはしごしていた。  これまでの生徒達だと、特に大神(おおがみ)という名前の生徒会長には多大な期待を持って抱きついたのだが、まったく違った。  名前だけでそれっぽいと思ったのが間違いだが。  苛立ちながらズカズカと歩く。  そうすると前方が不注意だったのか、廊下の角を曲がってきた生徒にドンとぶつかってしまった。 「ってぇな……」 「うあ、ごめん」 「あ? お前夜相か。男に抱きついて回ってるって噂の」  顎髭を生やした強面の生徒は、ぶつかってきたのが誰だかわかると、夜相の謝罪なんて耳に入らない様子でニヤニヤし始める。  夜相は男のそれに興味がない。  男の様子に気がついても、そんなことより捜索を続けようと、男の体を避けて前へ進もうとした。

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