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第6話

 新月は頷いた自分を後悔しているようだった。  事実こんなに近くにいるのに、ひと月、体を求められることがない。  走り続けていた気持ちが、初めて少しだけ曇った。  夜相はそこそこ上背はあるが、やはりオメガであるため、細くみすぼらしい体だ。  顔立ちだって特別愛らしいわけではない。  今までも廊下で絡んできた男のように体を求められることはあったが、理由は一様に〝オメガだから〟。  そういうことにしか役に立たない。  好きなように抱いても、夜相が誘ったと言われれば簡単に不問にされるような、大多数の本質的な認識だ。  番になって欲しいという申し出を断ったのは、夜相を捨てるいい機会だったのかもしれない。  それなのに愚かにも愛のまま追いかけた自分は──この臆病だけど優しい狼男の、柔らかな部分に漬け込んでいるのでは。  ゴクリとツバを飲む音が、沈みかけた夕焼けに染まる静かな室内に響く。  扇情的に目を伏せて自分を見つめるしなやかな男に、新月は抗いがたい香りを感じた。 「っ……や、夜相、」 「昨日から海外旅行だから、うちだれもいねぇよ……? は……っなんか、初めてだわ……発情期(ヒート)」  挑発するように吐き出した含み笑いが、熱を帯びていることは、夜相自身が理解していた。  発情期に合わせて抑制剤を意図的に止めたのは、初めてだ。  元々薬が効きにくい体で、発情期を迎える歳になってからは緩やかにフェロモンを出してしまうことはあった。  だが、自分からこうなることを望むことなんて、なかったのに。  そうまでして、求めてほしいという貪欲でズルい行為。  戸惑う新月を尻目に、シャツのボタンを外して乱雑に脱ぎ捨てた。  上半身が裸のまま、新月のシャツのボタンも外しはじめる。  そのままのしかかるように、上半身を新月の上にもたれかけた。  細く引き締まった腰は、布越しにお互いのものを擦り付けるように、ゆらゆらと揺らめきだす。 「ん……っなんか、熱い……きてる……」  体の奥の深いところが、甘く切なく収縮し始めるのを感じる。  夜相はシャツを開けて曝け出した新月の胸元に、無意識のうちに唇をよせた。 「や、夜相……! 俺がトンじゃう、薬、飲んでくれ……っ」 「ふっぁ、いいよ……トンで……っ俺もう、こんなぐらぐらする、なんてぇ……っ」 「うぅ……ッ」  チュ、とリップ音を何度も鳴らして肌に印を刻んでいくと、新月は目を強く瞑って体を緊張させた。  新月に力で夜相が敵うはずがない。  力ずくで引き剥がせばすぐにでも振り払って逃げ出せるだろう。  それでも逃げ出さないでただ耐え忍ぶ彼は、やはり自分を想ってくれているのだろうか。  抗いがたい熱に犯されただアルファを求める本能に支配されそうになっても、夜相は期待を薄れさせることができない。

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