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第9話※

「ヒッ……アッ、っ、おおき、ァっ……!」  室内の赤が薄まる頃、新月の体は大きく変化を始めた。  夜相の体を抱える腕は太く、指先には鋭い爪が伸びる。  腕を回した首は見る間に毛深くなり、硬く黒い毛皮に全身が覆われていく。  当然のように、胎内を穿つものも一層質量を増し、トロトロと柔らかく熟しきった肉を限界まで押し広げた。  熱に浮いた夜相に、喉元まで突き刺されているような圧迫感を与える。  夕日が沈み切ると共に新月が夜相の見慣れた姿に、彼の嫌悪した姿に変わっていく。  それでも交わることを止められない。  人間が、獣の姿に変わる瞬間。  昼間の大きな体を少し丸めて他人との関わりに怯える男と、月夜の野性的で美しい二足歩行の黒い獣。  別物のように見えるその二つが夕焼けの赤を溶かし、同一の存在だと知らしめる。  それは見るものを痛感させるだろう。  新月という男が、紛れもない化物だと。  フェロモンに惑わされ抗いがたい本能に突き動かされるがまま夜相を抱きながら、恐怖に震えるのは夜相ではなく──新月だった。  細くか弱い夜相の体を牙をむき出して唸り声を上げながら、壊してしまいそうなほど乱暴に犯す狼の自分の姿。  狭く熱く泥濘んで甘えてくる夜相の肉が気持ちよく、スカスカの中身が満たされていく。  奥を抉りたてると、外側からでも腹部が膨らんでいるのがわかるほど、自分の形を浮き上がらせるのがたまらない。  ここに注ぎ込みたい。  自分のものにしたい。  毛皮に覆われた太く鋭い指が無意識に抱きかかえる夜相の項をなぞった。 「……っ、ふ……ッ」 「ァッ、っ、あっ、あぁっ」  ギラつく牙をのぞかせ開いた口をすぐに閉じる。  首に抱きついて喘ぐ夜相は気がついてなければいいのだが。  ──怖い。  人間が醜い獣の姿に変わっていくのを目の当たりにして、実感する光景。  ──お前が離れていくのが怖い。  隣にいる心地よさを知ってしまったがために、失う怖さに怯える獣。  いずれ失うかもしれないなら。  離れられない関係になったことを後悔し、侮蔑や恐怖の目で見つめられるかもしれないなら。  貴方なしでは生きられなくなる前に、  どうか私から逃げてください。  そう願わなければ、そう願って、あの夜逃げ出しもう二度と会わないようにしなければいけなかった。 『あの、さ……俺の番になってください』  それほどまでに、本当は嬉しかった。

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