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第11話

 本当は、臆病なのは俺だ。  惹かれていたのは確かなのに、想いを告げるのに一年かかった。  笑うだろ。あんなに食ってかかって責め立てていたのに、自分はたっぷり猶予をもらっていたんだ。  それでも、ダメだった。  縛り付けたかった。誰かに取られると考えただけで涙が出そうだった。  怖くて怖くて、こんなズルい手管で追い込んだ。  自分を貫いて思う様に生きるのは、自分の心を守るため。  どんな相手にも怯まず立つのは、蹲ったらもう立ち上がれないから。  強いフリ(・・)をしているだけ。  目を閉じた時、まぶたの裏側に見えるのは自分自身の価値だ。  特別になにかできるわけじゃない。  体も弱ければ頭もよくない。  食が細くてところどころ骨が浮いた硬い体。  子供の頃は上背があるのと目が値踏みして細めるような鋭いものだから、気味の悪いカガチのようだと馬鹿にされては殴りかかり、返り討ちに遭っていた。  そんな性格だから外見も中身も愛らしさの欠片もない。  飼い殺したって面白くもないから、オメガとしてだって誰かが欲しがるとは思えない。  虚勢を張っていた。  別にかまわない。上等だ。俺は自由に生きていく。やりたことは何だってやる。俺は俺だ。俺なんだ。  絡まれて、殴りかかって、嘲笑され、食らいついて。  可愛げがないだって? 孕むしか能のない劣等人種だと?  馬鹿にするな、俺の名前はオメガじゃねえ、俺は夜相、ただひとりの夜相だ。  ギャンギャン吠えて、自分を愛護した。  心の底は、誰にも見せずに。  きっと誰も気づいてない。  そのまま、秘密に、大事に、抱えて。  だからあの日。  獣の姿で泣き出しそうになりながらコンクリートに鼻先を擦りつけて謝り俺の体を気遣う、人一倍俺を尊い人間のように扱ってくれたこの化物を見つめながら。  俺は──泣いていたんだ。  きっとその姿を見られて、お前は走り出して逃げ出したかったはずだ。  人間体を知らないのだから、決してバレやしない。秘密は秘密足りえて、事実は妄言に落ち着くはずだ。  なのにお前は、逃げずに真っ直ぐ向き合って。 『君が魅力的過ぎて、ただ少しだけそばに行きたいと思っただけなんだ……!』  惚れたら負け。  負け犬は、俺だった。

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