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第23話 好きだから5

夢のような浮遊した感じから離れていく感じがする。 離れていくにつれて、体が鋭利な物で強く刺されている気がする。 (痛い。なにこれ?) 痛過ぎる。飛び起きるように意識は覚めているのに視界は暗いままだった。 「……ぅ……ぃ?」 暗い?そう言いたいのに思ったようには音にならなかった。 誰かがそこにいる気配はする。その人に気づいてもらいたい。 「……っ!……ぁ」 「は、葉月様!お目覚めですか?そうでしたら、私の手を握ってください!」 あ、セサルさんだったんだ。 僕の手に、セサルさんの手が入り僕はそれを握った。 思ったように力が入らなくて疑問に思ったが、それよりも慌ただしく動き出したセサルさんのことが気になった。 「葉月様が!お目覚めです。」 誰かに電話をかけているのだろうか? もしかして、テオバルト様? 「……ぇ。て、……ぁ?」 (ねぇ、テオバルト様は?) 僕から、まだ匂う? 匂うからまだそばに来てくれないの? 「葉月様?」 「……。」 なんで、呼んでほしいの声がでないの? 僕が、声や、目を開けるほど体力がないことを把握してくれセサルさんが話を聞かせてくれた。 あれから、2年と2日たち、僕は抑制剤の過剰摂取で昏睡状態になっていたのをオメガのメイドがたまたま見つけたらしい。 それでも、三時間は僕を一人にしてたっていたと聞いた。 急ぎ、救急で運ばれ、状態が不安定であったがテオバルト様の意思で今はテオバルト様の寝室であることもわかった。 しばらくしてから、テオバルト様の気配がしてセサルさんと話をした。 今の目覚めてからの僕の様子をこと細かく聞いた上でテオバルト様が近寄った気配がする 「葉月。なんであんなことした?」 冷静で冷たい声。 「だ……ぇ。そぁに……ぃた……っぃ」 (だって、そばにいたかったから。) 必死にできるだけ伝わるように言うけれど、はっきりとしゃべれない。 それでも、僕の手のひらに暖かい温もりを感じた。 「そうか。」 一人にしてすまない。そうそのあとに聞こえた気がした。 僕の体力はなく寝てしまったが次目が覚めるときは目が開くほどの体力が戻ってからがいい。そう思った。 それから僕の目が開きやっと見ることができたテオバルト様に声を出して泣いた。 本当にあの時テオバルト様に会いたかった。もちろん発情の熱もあった。でも、それだけじゃなくて発情期が来なかったことや、テオバルト様に気を使わせてること、 子ができて、自分が母になってからテオバルト様を一人にさせる恐怖だけじゃなくて、あんなに僕を必要としてくれている子らの前からいなくなってしまうこと。 いろんな不安があってくだらないことにでも悲しくなって……そばにいたかったんだ。 僕が泣いた日からテオバルト様はずっと一緒に手を引いてそばにいてくれる。 そして、数年たった。 僕は30才を今年迎え、体調に変化は見られない。 あの日目覚めてからたくさんのことを話し合った。 「抱いて妊娠してまたあんな思いをするのは嫌だったんだ。」とテオバルト様は悲痛な顔をしていった。 僕のことを大切に思ってくれているのがわかって抱き締め返さずにはいられない。 そして、彼の匂いを胸一杯吸って僕はこう答えた。 「僕は、幸せになるごとに寿命が伸びるらしいんです。あぁ、今も幸せだからまた、一秒、いや、一分、一時間、1日、もしかしたら1年延びたかもしれないなぁ。」 あぁ、僕はテオバルト様のことがいとおしくて仕方がない。 魂の番で、旦那で、僕の愛する人なんだから。 彼と僕はずっと生きていたい。 FIN

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