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第5話 ②
休日の朝は遅い。うっすらと目が覚めるのは日も随分と高くなってからの事で、パタパタと騒々しく階段を駆け上がる足音と共に、バンと乱暴にドアが開いて叩き起こされるという事も珍しくはない。
「ちょっと、お兄! いつまでも寝てないでたまには部屋掃除くらいしたらってお母さんがー!」
ノックもなしに部屋に入ってきて、掛け布団を剥ぎ取る雑な起こし方は、正直どうかと思う。
「ってえ! おまえ乱暴過ぎんだろ?」
「何言ってんのー? 起こしてあげただけ感謝してほしいんだけど」
「つか。梢、学校は?」
「今日は午後から。お兄、駅まで送ってくんない?」
人を叩き起こしておいて、この上からな物言い。腹は立つが、妹が可愛くないわけじゃない。
「それが人にもの頼む態度かーぁ?」
ムクと起き上がって、梢の髪をクシャクシャとかき混ぜると、梢が「きゃぁー!」と言いながら抵抗した。
「お兄、酷い~! 髪クシャクシャじゃーん! セットすんのにどんだけ時間かかったと思ってんの」
「ガキが色気づいてんなよ」
「酷っ! ガキじゃないもん。そんなんじゃ、小夏ちゃんに振られるから」
「うるさいなぁ」
こんな言い合いは日常茶飯事だが、決して仲が悪い訳じゃない。むしろこの年頃の兄妹にしては仲がいいほうだと思う。
「起きてよね? そんで昼頃駅まで送ってって!」
「昼頃って何時?」
「十一時四十分の電車」
「分かった」
そう返事をすると、梢がやった! とばかりに嬉しそうに手を振って部屋を出て行った。
文句を言いながらも結局いう事を聞いてしまうのは、昔から。歳の離れた妹が、よちよち自分の後を付いて回って、自分がいなくなると泣き出した一番可愛い頃を覚えているから。どんなに大きくなっても、自分にとって妹はそういう存在。
「──俺も、なのかな」
悠介にとっての自分も。
小さく溜息をついて、ベッドの横の充電器に繋がれたスマホを乱暴に引っこ抜いた。
隣に住んでいた頃なら、嫌でも顔を合わせる機会があった。
あんなふうに、ちょっと気まずくなったからといって、顔を合わせて「おう」なんて一言挨拶をすれば、次の日にはすべて元通りだった。
あのころとは違う──連絡を入れなければ会うことはないし、そもそも会うどころか電話でさえ連絡が取れないかもしれない。
どうしてここで諦めてしまえないのだろう。
悠介の非情になり切れない優しさのせいだ。
いっそ、顔も見たくないと言われた方が諦めもつくのに。
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