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旅立ちの話

15歳の誕生日を迎えた。 いつでも施設を出て行ける歳になった。 夢にみた冒険へと旅立てる。 「一人で……ですか?」 応援してくれると勝手に思っていたリンドール様も難色を示した。 オメガが冒険者として一人で旅に出るなんて前代未聞らしい。 それはそうだ…。 オメガは体質上、筋肉がつきづらい。 冒険に必要な体力もない。 外で一人でいるオメガなんて攫って下さいと言っている様なもの。 ハンソンさんの物語のオメガ『ホタル』も特級種のアルファ『フィル』が居るから楽しく旅が出来ている。 オメガ一人では何も出来ない……そんな事わかっている……わかっているけど……。 「……せめて番をみつけてからにしたらどうでしょうか?」 ハンソンさんがついて来てくれるとは言ってくれない。 ……当たり前か。 黙ってしまったリンドール様の代わりにハンソンさんに窘められるけど……素直に聞き入れる事は出来ない。 「……番なんていらない。山道だって登れるし、逃げ足は速いもん……」 アルファなんて……嫌いだ。 蔑みか哀れみの目でしか僕を見ない。 どちらも僕にとっては同じだ。 僕を買っていたのは自分達のくせに僕を汚れ物の様な目で見る……。 「体力の問題だけではありません……言いづらいですが、旅先でヒートになったらどうするんですか?君はまだヒートの辛さを知らない。オメガがどれだけヒートに苦しめられてきたか……ヒートからオメガを救ってくれるのは番だけなんですから」 ハンソンさんまで僕にアルファを押し付けるんだ……。 「確かにヒートはまだ来てないけど、見た事あるし知ってる! 抑制剤だってあるし、なっても誰かに挿入れてもらえば良いだけでしょ!?」 「っ!!!」 僕がそう叫ぶと……ハンソンさんは悲しそうな……傷ついた顔をした。 「……お二人ともそう感情的にならないで……セルジュ……貴方が旅に出たいと言い出す事はわかっていました……しかし残念ですがオメガは一人で街は出られません。これは全世界共通の決まりなのです。一人で旅に出て次の街に入ろうとしたところで保護され保護施設へ連れて行かれるだけです」 僕の頭を撫でてくれたリンドール様の顔はどこか寂しそう。 「……まだ、誕生日を迎えたばかりなのですから……もう少し考えてみましょう?」 リンドール様にここまで言われると……この話はそれ以上続けられなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ リンドール様やハンソンさんに反対をされたからと言って簡単に諦められるものじゃない。 ここにいたら……いつかアルファと番にされる。 ハンソンさんの側で誰かに抱かれるなんて嫌だ。 この日の為にこっそり準備しておいた旅の道具。 日保ちしそうなおやつを食べずにいっぱい取っておいた。 ご見捨て場で拾った穴のあいた大きなリュックはしっかり補修した。 捨てようとしていた毛布を寝袋がわりにこっそり持ってきた。 ハンソンさんの本は誕生日に買って貰った3冊だけだけどちゃんとリュックに入れてある。 本棚から植物図鑑と……引き出しから古くなった物を貰った、ハサミ、火打石を取り出してリュックに詰める。 あとは着替えとお小遣いと水筒。 結構な荷物になっちゃったなぁ。 パンパンに膨らんだリュックを担いでみる。 ちょっとふらついたけど何とか歩けそう。 今日は『賢者の夜』……昔、帝国の皇帝がその身を樹木へと変えた日。 世界中の人が家で静かに賢者へと祈りを捧げる夜。 特別な用の無い人は外出を控える。 通りから人気が減って、行動に移すのに今日ほどうってつけの夜は無い。 耳を隠す為にフードをかぶり、尻尾を服の中へしまうと廊下を覗いた。 ……誰もいない…よね。 こっそり廊下を進み見つからないように、焦る心を落ち着けながら音を立てない様に外へ向かった。 施設の門をくぐると1度振り返り頭を下げる。 先生、リンドール様、ハンソンさんごめんなさい。 いっぱいお世話になって、いろんな事を教えて貰って、いっぱい大事にしてもらったけど……僕は……やっぱり旅に出たい。 優しくされればされるほど……何故か心が寂しかった。 一人で生きていくんだと決めたのに、引かれる後ろ髪を振り切って街の入り口までやって来た。 流石に門兵が立っているだろうし、どう通り抜けようか考えながらこっそり近付くと……誰もいない。 門は開けっ放し……まるで通って下さいと言っているみたい。 僕にとっては幸運だけど…こんなに無用心で良いのだろうか? 賢者の夜だから賢者様が味方してくれてる? 賢者様から貰ったこの幸運を無駄にしないように急いで門を通り抜けた。 見つからないように足を止める事なく小走りを続け門から離れる。 ここまでくれば……平気かな? 門が大分小さくなったところで足を止めた。 落ち着いてから周りを見渡すと……。 広い……広い世界が広がっていた。 施設の皆とピクニックに出た事はあったけれど……その時みた風景とは全く違って見える……。 今日から僕は自由なんだ。 誰の目も気にしなくて良いんだ。 足の向くまま、冒険の旅へと第一歩を踏み出した。

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