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後悔の話

朝が来る前に早く街から離れないと……そう焦って急ぎ足で進んだのがよくなかった。 オメガとしては体力がある方だと思ってたけど……荷物の事まで頭に入れて無かった。 肩に食い込むリュックが体力を奪っていき、すぐにバテてしまった。 まだ一時間も歩いて無いのに……。 街道をそれて林の中へ身を隠すと腰を下ろして靴を脱いだ。 痛いと思ったら擦れて血が滲んでいた。 オメガってなんて柔な生き物だろうか……。 薬草なんて持ってきていない。 幸い月明かりで周りが明るいので植物図鑑を取り出すと、薬草の項目を開いて、傷に効くものを探した。 リーブルーの葉……丸くて、緑色の葉っぱ。 ……見つかるかな? 草だらけの林の中を見ると自信が無くなるけど……これからも薬草は必要になるだろうし、頑張らないと……。 側の茂みをがさがさ探っていると……ヒラリと目の前に1枚の葉っぱが落ちてきた。 リーブルーの葉だ!! こんなに早く見つかるなんて僕はツイてる!! ……で? この薬草をどうしたら良いんだろう? 図鑑には使い方までは載ってなかった。 とりあえず足の裏に葉っぱをくっ付けて毛布にくるまった。 施設ではとっくに消灯時間は過ぎている。 目蓋が重い……。 今は体を整えて、また明日頑張ろう。 もう外の世界に飛び出せたんだ。 焦る必要はないんだから……。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 眩しい朝日と共に目を覚ますと、葉っぱは消えていたけれど、足の傷はすっかり良くなっていた。 薬草って凄い効き目だなぁ。 持ってきたお菓子を少しかじり、水筒の水を一口飲むと荷物を担ぎ街道へ戻った。 よく考えて食べないとすぐに無くなってしまう。 お金も少しはあるけれど、街に入れない僕は買い物が出来ない。 食料は現地で調達していかないといけない……狩りなんて当然したことが無いから、草をおかずに草を食べる事になりそう。 黙々と歩いていると、向こうから荷馬車を引いた人が歩いて来る。 オメガの一人旅とバレないだろうか……バレたら連れ戻される。 バクバクと心臓が騒ぎだした。 すれ違い様……ジロジロ見られた気がしたが……特に話しかけられる事もなく通りすぎていった。 安堵して、止めていた息を大きく吐いた。 ……何だ……旅に出ても人目が気になるのは変わらないのか。 それもいつか慣れるだろうと、気持ちを切り替えて街道をひたすら歩いた。 行けども行けども変わらない風景。 お腹が空いてお菓子をかじり……喉が渇いて……水を飲み過ぎてしまった。 どこかに井戸……なんて無いよね。 仕方ない……歩いていればいつか川にでも出るだろう。 そう期待してひたすら足を進めた。 日も落ちてすっかり辺りは暗くなってきた。 火を起こそうとして……燃やす物が無いのに気付いたが、こんなに暗くなって林の奥へ薪を取りに行くのは危険だろう。 汗でベタベタする体のまま毛布にくるまり、お菓子をかじる。 お菓子ではお腹が膨れない。 力も出ない。 水も無い。 通り掛かりの人に譲って貰おうかと思ったけれど、オメガとバレたら…と思うと声を掛けられなかった。 寝て空腹をまぎらわせようとしたけれど、なかなか寝付けない。 ハンソンさんの言った通りだ。 オメガに一人で旅なんて出来ないんだ。 いや……オメガだからじゃない。 物語は物語だった。 冒険のわくわくやドキドキを伝えるもので、生活する事まで詳細には書いていなかった。 生きる為に何が必要かなんて考えていなかった。 井戸に行けば水が飲める。 時間になれば食事が出てくる。 薪が無くなっても倉庫に行けば薪が有った。 あんなに嫌だった施設が、なんて恵まれた環境だったのかを思いしった。 小さなプライドが傷つけられる事ぐらい我慢するべきだったんだ。 どうして何とかなるなんて思ってしまったんだろう。自分の無知と浅はかさを思い知らされた。 ……帰りたい。 リンドール様やハンソンさんが反対をしてくれたのにそれを裏切って街を勝手に飛び出したんだ。 会わせる顔がないし、無断で門を抜けた僕は……犯罪者だ。 帰れない。 『ホタル』と『フィル』みたいに『運命の番』の絆で結ばれた相手との旅なら楽しいのだろうか? ………いや。 僕は選ばれた人間じゃない。 『運命の番』なんて伝説級の物語だ。 僕と番になりたいなんて、僕の為に生きてくれるアルファなんているわけ無い。 そんなの嫌って程この身に刻まれてきたじゃないか……。 ポロポロと溢れる涙をそのままに……いつしか眠りに落ちていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ……?? 朝、起きると……水筒が満タンになっていて……お菓子だけと思っていた食料袋の中にパンと干し肉が入っていた。 神様の思し召し? 天に向かってお礼を言うと、ありがたく頂いた。 1日ぶりのまともな食事は……涙が出そうなほどお腹と心を満たしてくれた。 神様がついてくれている。 そんな気持ちを原動力にまた足を進めた。 目的地はない。 何処に向かえば何があるかも知らないから。 昼な差し掛かる頃、道端で道具を広げている人に会った。 『行商人』って人だな。 そうか……街に入らなくても買い物が出来るのか。 そっと商品を覗くと「いらっしゃい」と声を掛けられる。 あ……パンが売ってる。 銅貨5枚か、高いのか安いのかは分からないけど。 僕のなけなしのお小遣いは銅貨20枚。 パンを4つ買ったら終わっちゃう。 収入源はないし。 暫く悩んでいると……。 「金が無いなら商品の買い取りもしてるよ」 そうか買い取りか……でも売れる物なんて特に持って無……っ!? 腕をいきなり掴まれ引っ張られた。 「あんたオメガだろ…耳、隠してるつもりだろうが、フードの膨らみでバレバレだ…どっかの娼館から逃げて来たのか?腹を空かしてるならその体、俺が買ってやる」 耳元で囁かれた言葉。 目の前の景色から色が消えた……結局僕にはその道しか残されていない。 『生きる為』にはこの体を売るしか能がない。 「……いくら?」 「さすが話が早いな。街のオメガはベータの俺とは出会いがねぇ、娼館はぼったくりで手が出ねぇからな……オメガを抱けるなんて……銀貨1枚でどうだ?」 ……銀貨1枚。 娼館にいた頃は店が管理してたから自分の値段なんて知らない。 僕の体で……パンが20個買える。 それが安いのか、高いのか……。 黙ったままの僕に男は了承と受け取ったのか、荷物を仕舞うと、僕の手を取って大きな岩の陰へと移動した。 男は僕のフードを取ると目に見えて落胆した。 「何だ……焦げ茶か……まぁ、オメガはオメガだよな」 オメガの価値は毛並みで決められる。 白、銀、金、薄茶、焦げ茶、斑、黒の順。 男の手がズボンのベルトを外していく……。 僕は……ぼんやりと空を見上げた。 僕を蔑みの目で見ながら……僕を抱く男達は……何を求めて僕を抱くのだろう。

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