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願望の実現の話

僕のズボンを下ろそうとした男の首に……ピタリと剣があてられた。 「オメガの売買は同意であっても御法度だぞ」 怒気を含んだその声の主は……。 「な…なっ!?違う!こいつから誘われてっ!!…その剣の紋章……ゼ…ゼルラ―リック国の騎士様っ!?お見逃し下さいっ!!」 ……ハンソンさん。 初めて見る怒った顔……知らない人を見ているかと思う程の冷たい目。 ハンソンさんを見るなり男は土下座をして謝った。 僕を捕まえに来たのかな? こんなに早く見つかってしまうなんて……。 こんな事してるところを見られて、もう外には出してもらえないだろう。 「本来なら投獄してやりたいところだが、今は街に戻れない……見逃してやるからさっさと失せろ。二度とオメガを買おう等と思わぬ事だ」 男が逃げ出して行ったのを確認して、ハンソンさんは剣を鞘に戻し俺を見ると溜め息を吐いた。 「隠れてサポートする様に言われていたのに……危なっかし過ぎてもう見ていられません」 その目と声にはまだ怒りが宿っている 「僕を捕まえに来たんですか?よく、見つけましたね」 視線から逃げようと震える手でフードを被り直した。 「セルジュは捕まるような事をしたのですか?」 「国を……門を無断で越えました。禁止されている体の売買をしました」 旅の現実を知り、折れていた心を包んで欲しくて、前みたいにハンソンさんに抱きつきたいけれど、罪を犯した後ろめたさがストップをかける。 「……そうですね。体の売買については二度としないと今ここで誓ってくれるなら見なかった事にします」 「……でも僕にはそれしか価値が無いみたいです」 ハンソンさんは鞘に納められたままの剣を僕の前に立てた。 「誓って頂かないと俺は君を帝国へ引き渡さなければいけなくなる」 帝国はオメガの管理が徹底していると聞いている……過ごしやすい代わりに…自由は無くなるだろう。 そしてゼルラ―リック国よりも多くのアルファが集まっている。 「……分かりました」 ハンソンさんが差し出した剣に向け頭を下げ誓いをたてさせられた。 僕の唯一売れるものが封じられてしまった……これで、僕には何が残るんだろう。 ゆっくりと頭を上げると、突然力強い腕に抱きしめられた。 「セルジュは物ではありません。価値があるとかないとかおかしいでしょう……」 「ハンソンさん……」 「街を抜け出した事については……セルジュが施設を出た時からずっと後ろに付いていました。オメガ一人での違法出国じゃない。俺が同行者で、届けも出しました」 そう言うと、ハンソンさんは何かを取り出した。 「……ギルドカード?……僕の……」 ギルドから認められた冒険者の証。 オメガは一人では登録出来ないけれど、同行者の欄にハンソンさんの名前が書いてある。 「どうして?何で僕のギルドカード……」 「リンドール様がセルジュならきっと脱け出して旅に出るとおっしゃって……逃げ出す前にと用意してくれました」 「ハンソンさんが僕の同行者になったら……騎士様のお仕事は?」 クビに…なってしまったのだろうか? 「一人旅をしたいというセルジュの夢を叶える為に影から支えるようにマリユス王から正式に命を受けております。しかし今回は流石に隠れている事が出来ませんでしたが……」 僕の手を取って立ち上がらせて……逆にハンソンさんが片膝をついてしゃがんだ。 「お供を……させて頂けますか?」 そう微笑んでくれたハンソンさんに……思い切り抱きついた。 ボロボロ溢れる涙をハンソンさんのシャツが受け止めてくれて、大きな手が頭を撫でてくれた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ハンソンさんは手際よく火を起こすと暖かい、野菜とお肉の入ったスープを作ってくれた。 涙が出るほど美味しく感じる。 「ハンソンさん凄い……何でも出来るんですね」 「野営で慣れてますから」 そう良いながら照れた様に笑う顔は……騎士としてリンドール様の側に居る時よりも子供っぽく感じた。 ハンソンさんは鞄から……比率の合わないサイズの桶を出すと水を張り、タオルを濡らした。 「体をこれで拭いて下さい。ちゃんと見張っておきますからご安心を……」 僕に背を向けてハンソンさんは食事の後片付けを始めた。 こんなに水の無駄遣いをして良いのだろうか? でも、濡れたタオルで体を拭いていくとベタベタした体がさっぱりしていく。 「水……こんなにいっぱい使って良いんですか?」 「水なら沢山汲んで来ましたから、お気になさらず」 そう言えば……僕のリュックより小さなあの鞄にどうしてこんなに沢山の道具が入ってるんだろう? あっ!! 「ハンソンさん!もしかして『アイテムボックス』!?」 物語にも出てきていた、無限に物が収納出来るマジックアイテム。 とても高価な物だと聞いた。 「物語の様に無限では無いですけどね……王からの餞別です。俺の給金じゃ、このサイズでも一生手が出ませんね……セルジュの荷物も移して良いですか?」 「是非お願いします!」 物語の中の夢のアイテムの出現に、旅に出た後悔に沈んでいた心が浮き上がった。

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