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封印した心の話
森の中へ消えていったセルジュを探して森の中を探しまわった。
ズボンを履き直している間に距離を開けられた。
俺がアルファなら匂いですぐに追いかけられるのだが。
こんな森の中、他に人がいるとは到底思えないが……もし、魔獣にでも襲われたら……無事でいてくれセルジュ。
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リンドール様の護衛として訪れていた犯罪に巻き込まれ傷付いたオメガの子達の保護施設。
見た目には落ち着いて見えるがいつも一人で本を読んでいるオメガの子。
マシロさんやリンドール様達の様に奴隷村ではなく娼館で保護した子だ。
保護した時、ヒートすら来ていない子供だったが、もっと幼い頃から客の相手をさせられていた様だ。
その首筋には、アルファに噛まれたのであろう、無数の傷が残る。
リンドール様以外になかなか心を開く事は無かったが……いつもセルジュが持っていた本は、リンドール様に届いたマシロさんからの手紙の内容を俺が物語にしたものだった。
マシロさんは俺の元上司、ティオフィル隊長の番。
隊長は上級種のアルファでありながらオメガを嫌い、ただ一人だけ『運命の番』をずっと探し続けていた。
そしてついに見つけだしたマシロさんを宝物の様に守り、マシロさんもティオフィル隊長にだけ心を寄せていた。
強くて厳しかった隊長のマシロさんに見せる表情は本当に蕩けきっていて……幸せそうな二人の姿に、自分では持つことの出来ない番という存在に憧れた。
だが、マシロさんが事件に巻き込まれ、隊長はその怒りで『特級種』としての力を覚醒させ、国を捨て去っていった。
『特級種』のアルファの怒りに世界の終わりが再び訪れると世界中が怯えていた。
しかし……数年前から時折リンドール様へ届けられる、一生懸命書かれたその手紙は2人で旅に出た喜びで溢れていた。
……マシロさんが隊長の怒りを解してくれていたのだ。
一方的に送られて来る手紙に返事が書けずにいたリンドール様の為にマリユス様から頼まれて俺が本を書いた。
本にして手紙をちゃんと受け取っている事を伝えたいという事だ。
俺ぐらいの文章の方がマシロさんに伝わるだろうという事と、マシロさんと面識があったという理由で選ばれた。
お粗末な文章ながら、気持ちだけは込めた。
マシロさんがいつか手に取って気付いてくれればいい。
マシロさんからの手紙を楽しみにしているのだと伝えたい。
そんな思いのこもった本を愛してくれるセルジュ。
俺が作者だとわかると、俺にとても懐いてくれて……向けられる真っ直ぐな好意に……いつしか俺はセルジュに特別な感情を抱く様になっていた。
マシロさんに読んで欲しいと思っていた本も……いつかセルジュと一緒に旅に出たいと……2人を自分たちに置き換えて、俺だったら……セルジュにしてやりたい事、セルジュと2人でしたい事など夢をのせる様になっていった。
性の暴力で傷ついた心を癒し、安心して暮せるサポートをするべき立場の俺が、まだ成人も迎えていない子に抱いていい感情ではないし……ベータとオメガの組み合わせは世間にはなかなか受け入れてもらえない。
あの子の幸せの為には立派なアルファを見つけてあげる事だ。
俺は想いを封印して、セルジュの幸せだけを祈った。
セルジュが成人を迎えた日。
一人で旅に出たいと言い出した。
一人で……危険なのはもちろんだが……俺をおいて一人で旅立とうとするセルジュが許せず、酷い事を言って傷付けてしまった。
その夜、マリユス様に呼び出される。
「リンドールから聞いたんだけど……セルジュが一人で旅に出ようとしてるんだって?止めたらしいけど……きっと聞かないだろうね」
それは、俺も危惧している。
あの子は以外に強情で……時折突飛な事をしでかす。
「オメガの一人旅は禁止されてるんだよなぁ。帝国にバレたらまたお咎めを受ける。誰か同行者をつけないと……でもセルジュは嫌がるだろうし、尾行するにもアルファは匂いでバレるし、一人で行かせて帝国に連れていかれたら……リンドールが悲しむ顔は見たくないんだよな。どうしたら良いと思う?」
どうしたもこうしたも……全てお見通しなのだろう。
オメガの同行者に志願するベータはまずいない。
一緒にいるだけで犯罪者だと疑いの目を向けられるし、オメガを気に入ったアルファと出会えば殺され兼ねない。
セルジュを安心して任せられるアルファがいない以上、他の誰にも任せられまい。
「……是非俺をセルジュの同行者に任命して下さい」
王様から渡されたアイテムボックスと俺とセルジュのギルドカード。
「俺が断ったらどうするおつもりだったのですか?」
「ん?断らないだろう?保護施設の子供達はみな俺とリンドールの子供も同様だ。幸せになって欲しい……宜しく頼んだぞ。ハンソン」
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