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切望の話

セルジュの気持ちには気付いていたが、まさかヒートのフリをしてまで迫られるとは思わなかった。 ヒートを見た事があると言っていた……オメガ同士だとフェロモンを感じない、ヒートは単に性欲が高まるだけだと思って真似したのだろうが……思わず手を出すところだった。 だが俺が手を出すわけにはいかない。 セルジュを任せられる番を探すと、マリユス様に誓ったのだ。 今は俺を慕ってくれているが、でもそれは番となるアルファと出会ってないからだ。 もしあの誘いに乗ってセルジュと関係を持ってしまったら……一時でもあの子を俺のものだと勘違いをしてしまったら。 この先あの子が惹かれ合うアルファと出逢って番になった時、俺は……あの子を許せずに殺してしまうかもしれない。 それほどまでに……俺の思いは煮詰まっていた。 「セルジュ!セルジュ何処だ!!」 「いやっ!!やぁっ!!いやだあぁぁぁっ!!!!」 森の奥からセルジュの悲鳴が聞こえ、声を頼りに駆けつけた俺が見た光景は……。 地面に押さえつけられ首に牙を立てられるセルジュの姿。 辺りに微かに漂う香はオメガのフェロモン。 まさか本当にヒートが始まっていたのか!? オメガはアルファと番になるのが一番。 自分に散々言い聞かせて、願っていた光景なのに……。 腰が抜け、その場にへたり込んだ。 「見ないで……」 弱々しいセルジュの声にも体が反応せず、助ける事も出来ずにアルファの発する殺気に体を震わせていた。 意識を失ったセルジュの上からアルファが退く気配はない。 「も……もう…その子を…離して……くれ」 重くのしかかる気を払いながら必死に手を伸ばした。 「今の悲鳴は?そっち行ってもいいですか?」 場違いな程、澄んだか細い声がしてそちらを見ると木の陰にもう一人立っていた。 頭からすっぽりマントに包まれいて容姿は確認できない。 「何でもないよ。もう大丈夫だ」 声に反応して、顔を上げたアルファは……。 「な…んで……あなたが……隊長」 俺が今でも尊敬して、俺が理想とするアルファ。 ずっとずっと会いたいと望んでいた人物が立っていた。 ティオフィル隊長。 じゃあ、このマントの人物はマシロさん? 何故、マシロさんという『運命の番』のいる隊長がセルジュを番に……。 マシロさんと思しき人物がセルジュの側に駆け寄り自分のマントを脱いで体にかけた。 見覚えのある、半分から先が千切れた耳……。 間違いない……マシロさんだ。 「あれ?ハンソンさん?」 「あ?まさか……お前の…だったのか?悪いことをしたな」 俺に気付き、バツが悪そうに頭をかく隊長の足元に俺は勢いよく土下座をした。 「隊長!!お願いします!!セルジュをあなたの番として幸せにしてあげて下さい!!」 「は……?」 「ティオフィルさん?番って?」 「いや……それは……えっと……」 マシロさんの真っ直ぐな目に見上げられどもる隊長の手を握りしめた。 「俺が一番尊敬するアルファのあなたなら大切なセルジュを任せられます!!」 「ま……待て!落ち着け!ちょっとこっちへ来い!!」 セルジュとマシロさんから離れた場所へ移動するなり、俺は隊長に思い切り殴られた。 「マシロの前で誤解を生むような事を言うんじゃない!!」 そう怒鳴り上げた隊長の口元には牙が光っていた。 あの牙さえあれば……俺がセルジュを幸せにしてあげられたのに。 初めて隊長に妬みの感情を抱いてしまった。 「隊長はヒート中のセルジュを噛んだじゃないですか!!ずっとあの子に合ったアルファを探していたんです!!お願いします!良い子なんです!幸せにしてあげて下さい!!」 「とりあえず泣き止め……久々に会ったと思ったら……番になんてしていない」 「え?でも……噛みましたよね……?セルジュの首……マシロさんとまだ番になっていなかったのは意外でしたがっ……」 また頭を殴られた。 「もうとっくに番になってる!!マシロはれっきとした俺の番だ!!」 「え……じゃあ、セルジュは?弄んだんですか!?いくら隊長でも酷い!!」 敵うわけないが、剣の柄に手をかけた。 「ヒートの匂いをさせながら、マシロの前で俺に腰を擦り付けやがった……だからフェロモンを分泌する管を噛みきってやったんだ……まさかお前の保護下にいたとは思わなくて、怒りに任せて悪いことをしたとは思うがマシロ以外、番とか無い」 「フェロモンの管を噛みきる?そんな事……出来るんですか?」 それも特級種の力なのか? 「匂わなくなったし出来るんじゃないか?ただ……」 言いづらそうに隊長は黙った。 「ただ……何ですか?」 セルジュの事は……辛い事でもちゃんと把握しておきたい。

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