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憧れの恋の話

隊長は俺をちらりと見てから目を反らした。 あの子の身に何が起こっているんだ? 俺は恐々と隊長の言葉を待った。 「ヒートが……来ないかもしれない」 「ヒートが……来ない?」 ヒート中にアルファがオメガの首を噛む事で番になる。 ヒートが来ないと言うことは……。 セルジュはもう誰とも番になれない。 それは、オメガとしては致命傷……だが……。 あまりの事に言葉が出ない。 「だから!悪かったと言ってるだろう!!お前の望みの番にはもうなれないが子供が産めなくなる訳じゃないし……賢者の森に行って爺さんに……「隊長っ!!!」 俺は隊長の腰にしがみついた。 号泣する俺に隊長は思い切り嫌そうな顔をして引いている。 「隊長!やっぱり貴方は俺にとって最高のアルファです!!」 「離せ!気持ち悪い!!マシロ以外俺に触るのは無しだっ!!」 思い切り魔法で吹き飛ばされたが、笑いしか出て来なかった。 「ははははっ!!さすが特級種のアルファ!!」 「は?何だよ特級種って……俺の事か?」 「そうですよ……あの日、あなたの怒りは山を消して湖を作り出した……その事から特級種に認定されました」 「あの爺さんと同レベルかよ……」 爺さん?誰の事だろう? 隊長は「何でも無い」と大きな溜め息を吐いた。 「…隊長……俺はあの子が好きだったんです」 「は?なんだ?いきなり恋愛相談か?」 隊長は寝転がったままの俺を心配そうに見下ろしてくる。 「俺はあの子の側に居ながら……抑制剤も持っていたのに、ヒートに気付いてあげられなかった。やっぱりベータの俺と居るより、2番目とはいえ、特級種である隊長といた方が後々必ず幸せになれる……そう思い込もうとしました」 「相変わらず、馬鹿のくせに頭が堅いな……残念だが。その願いは叶えてやれない。俺は『マシロだけの人』だからな」 隊長は自分の台詞に照れながら視線をマシロさんとセルジュに移した。 俺もセルジュの方を振り返るとマシロさんがセルジュの手を握って楽しそうに話している。 まだ隊長の番にされたと思っている筈のセルジュ。 常に暗い影のあったセルジュの表情が穏やかな笑顔へ変わった……マシロさんの影響か……隊長に惚れたのか……。 喜ぶべき筈のセルジュの変化に心が痛んだ。 「……て、何で隊長光ってるんですか!?」 横に立っている隊長の両手が光っている。 まさかセルジュがマシロさんに触れられたからって攻撃するつもりじゃ…この人ならあり得る。 「ん?あぁ……マシロが俺の力を使ってるんだな……」 「……どういう事ですか?」 「俺達は『運命の番』だからな……魂が繋がってるんだよ。あの事件以来繋がりが強くなったのか、たまにこうして俺の力をマシロが使うんだよな……本人は無意識だが」 マシロさんとの繋がりの強さを誇示して、デレデレとにやける隊長……本当にお変わり無いようで…脱力したが……おかげで思い出した。 番になる前のマシロさんと隊長の幸せそうな姿を……アルファや番などという予備知識が全く無く、匂いやフェロモンなんか関係ない、アルファとベータの見分けがつかない中でマシロさんが隊長に向けていた気持ちは……純粋な恋心。 俺が憧れたのは番ではない……二人の恋する姿だった。 「俺は、オメガはアルファと番になるべきだと……自分に呪いをかけていました」 「まぁ……普通オメガのヒートを抑制出来るのはアルファだけだからな……でもマリユスがお前とあのガキの旅を許したんだろ?お前らはもう認められてるじゃないか」 「マリユス様が……?」 『幸せになって欲しい』 マリユス様の言葉が頭に浮かぶ……俺で、良いんでしょうか…王よ。 「マリユスはオメガに甘いからな……オメガの為にならない事は許可しないと思うぞ?」 それは俺が側にいる事があの子の為になると言って貰えてると思ってもいいのか? あの子が一生懸命伸ばしてくれていた、あの手を取っても良いのだろうか? 「隊長のお陰で恋を取り戻せそうです」 本当に……貴方の部下で良かった。 「役に立てたなら、俺の罪悪感も減るな」 隊長はニッと笑った。 「罪悪感なんて持ってなかったでしょうに……」 「そんな事はない…マシロが気に入ったみたいだからな……あのオメガには幸せになる義務がある」 隊長は笑って俺の背中を叩いてくれた。

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