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初めての話
話が終わり、ハンソンさんとティオフィルさんが此方へ向かってくる。
逃げ出したいけど、マシロさんに手を握られて二人の元へ連れていかれた。
「仲良くなったのか?良かったな」
ティオフィルさんはいとおしそうにマシロさんの頭を撫で、マシロさんも嬉しそうにその手にすり寄った。
1番と2番が仲良くした方がそれは都合が良いよね……ハンソンさんを盗み見ると笑顔を必死に噛み殺している。
こんな僕がハンソンさんの理想のアルファの番にしてもらえたんだから喜んでる?
それとも僕の子守りから解放されるから?
ズクズクと心が泣いている。
「隊長……ありがとうございました」
ハンソンさんが頭を下げた。
あぁ……別れの時が近づいている。
いっぱい迷惑をかけた。
いっぱい我が儘を言った。
せめて……最後は良い子で別れたい。
手の中のホタル石を握りしめ、心に蓋をする勇気を貰う。
「王様も王妃様もお会いしたがっております。城へ立ち寄っては……頂けませんか?」
マシロさんがティオフィルさんの顔を見上げると、ティオフィルさんは困ったように笑って、
「そのうちな……」
とだけ答え……手を振るとマシロさんの手を引いて去っていった。
………。
……僕は?
番に置いていかれた。
慌てて追いかけようとしてハンソンさんに腕を掴まれた。
「セルジュ……すみません……初めてのヒートで怖い思いをさせました。俺がもっと早く気付いてあげていれば良かったのに……」
「……いえ、僕こそ…勝手に離れて……すみませんでした」
全く状況が掴めず、耐え難い沈黙が続く。
「……僕は…番にも捨てられたんですか?」
……あまりにも惨めすぎて笑いがこぼれる。
「セルジュ……此方へ……」
ハンソンさんがすぐに焚き火を起こすと二人で暖かな火の側に腰を下ろした。
「……先程のアルファは俺の元上司で……物語のモデルになった特級種のアルファなんです」
「はい……マシロさんから聞きました」
番にされて捨てられてしまったけれど……思わず首筋に手を当てた。
「君はあの人の番になった訳ではありません」
「え?でも確かに噛まれて……」
この首の痛みが証拠だろう。
「俺も詳しい事はわかりませんが、フェロモンの管を隊長が断ち切ってしまったそうです。だから…君はもうヒートを起こせない」
「ヒートが起きない?」
ヒートが起きないオメガなんて……普通に考えればオメガとして欠陥品だ。
だけど……ヒートが起きないって事は……番に拘る必要がない?
「セルジュ……君を沢山傷付けておいて……今さら虫のいい話ですが……俺にもう一度チャンスを貰えませんか?」
ハンソンさんの真っ直ぐ視線が僕の目をみつめてくる。
少し固いハンソンさんの手が僕の手を取って……手の甲にハンソンさんの唇が触れた。
「愛しています。セルジュ、俺を君の恋人にしてください」
「ハ……ハンソンさんっ!?」
慌てて手を引っ込めた。
何を言われた?こ……恋人!?
「こ…恋人なんて駄目です!!僕こんなに汚いし……毛色だって焦げ茶だし……性欲処理に使って貰えるだけで……」
「セルジュの何処が汚いんですか?君は誰よりもキレイだ……セルジュ、お願いします。君を守らせて下さい」
ハンソンさんは……僕の体を抱きしめてくれた。
……いいの?
僕なんかがこんな幸せを手にして……許されるの?
その胸に顔を擦り寄せると大きな手が頬を包み込んで……上を向かされた僕の唇にハンソンさんの唇が重なった。
「ん……んあぁ……」
ハンソンさんの手が僕の全身を優しく撫でて……唇が這っていく。
ハンソンさんが触れた箇所からゾクゾク痺れる様な感覚がして、体が熱を持っていった。
な…何これ……。
全然違う。
セックスは挿入れるだけじゃ無いの?
何でハンソンさん……挿入れないの?
やっぱり散々他の人に挿入れられた僕の体に挿入れる気にはなれないのかな……?
「あ……や……」
感じた事のない感覚に思わず尻尾でハンソンさんの手を払う。
「セルジュ?イヤ……ですか?」
ハンソンさんの体が離れていく。
「違っ……違う……ヒート起きないって……嘘です……身体、熱くて痺れて……」
捨てられない様に離れていく体に縋る。
「セルジュ……あまり可愛い事を言わないで下さい」
自分の体の変化に戸惑う僕とは逆にハンソンさんは嬉しそうに僕の体を抱きしめた。
「感じてくれてるんですね……嬉しい」
感じる?このゾクゾクするのが感じてるってこと?
「ハンソンさんにとって良い事?僕の体……おかしくないですか?」
「とても嬉しい事です。セルジュ…君と一つになっても良いですか?」
「早く、挿入れて…下さい……ハンソンさんの…欲しい……」
ハンソンさんに手を伸ばすと大きな手が指を絡めて握りしめてくれた。
ゆっくりと僕の中へ入ってきたハンソンさんのモノは、その挿入の優しさとは違い激しく僕の中を突き上げていく。
「すみません、セルジュ……余裕が無くて……!!」
「あ…ああっ……はあっ…あぁ…」
ハンソンさんのモノが僕の中を擦りあげていく度に体の熱が上がっていく。
「セルジュ…好きです……愛してます」
「はあっ!!やっ…あぁっ!僕も…僕も好きっ!あっ、あっ、あぁああっ!!」
お店の先輩オメガに客を喜ばせる為に演技でも声を出せとか、気持ち良いフリをしろと教えられていたけれど……そんなフリをする余裕もなかった。
ハンソンさんから与えられる初めての感覚に僕の体は蕩けきっていた。
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