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ホタル石の話

夜中に目を覚ますと焚き火に照らされるハンソンさんの横顔。 ハンソンさんも横になって寝れば良いのに。 僕が寝袋を使っちゃったからかな? 「……どうしました?眠れませんか?」 目を閉じていたから寝ていたのかと思ったけど…ハンソンさんはしっかり起きていてこちらを見ていた。 「ハンソンさんは寝ないんですか?」 「大丈夫ですから、セルジュは安心して休んで下さい」 あ、見張りをしてくれてるんだ。 見張りなんて考えもしていなかった。 この数日暢気に寝ていた……あれ? 「もしかして、薬草も水もパンも……ハンソンさんですか?」 ハンソンさんはただ静かに笑った。 僕の神様の正体はハンソンさんだったのか。 交代を申し出たけれど、慣れているからと断られた。 焚き火の柔らかな光で、陰影のはっきりしたハンソンさんの横顔はいつもと違って見える。 「……本でも読んで差し上げましょうか?」 目を閉じていても気配を感じるものなのだろうか? じっと見つめていたのがバレた。 「……子供じゃないです」 作者様ご本人の朗読は惜しいけれど、これ以上子供扱いされるのが嫌で背中を向けて目を閉じた。 ……もぞもぞと体を動かしてハンソンさんの側へ移動する。 「怖いんですか?」 ハンソンさんの背中にぴったりと頭をくっつけた僕にハンソンさんの忍び笑いが聞こえる。 「……怖くないです。寒かっただけです」 頭をそっと撫でてくれる。 伝わってくるハンソンさんの温もりに落ち着いて眠る事が出来た。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 良い匂いがして……自分のお腹の音で目が覚めた。 クスクスと忍び笑いするハンソンさんを恥ずかしさをごまかす様に軽く睨むと 「ククッ………すみません」 謝りながらスープをお椀に入れて、食事の準備をしてくれている。 僕も起こしてくれたら手伝ったのに……。 「そうだ、この近くに湖があるんですが行ってみますか?物語の中にも出てきたホタル石の湖です。湖は街で見慣れてますかね?」 渡されたお椀を持ち上げると優しい香りが胃を刺激する。 「一番最初の物語のですか?行きたいです!!」 街のすぐ側には大きな湖があり、施設でのピクニックの定番スポットだった。 そこにはよく行ったけど……物語の舞台になった場所へ早速行けるなんて!! はやる気持ちを抑えながらハンソンさんのスープをゆっくりと味わう。 柔らかく煮られた野菜は甘味があって体だけじゃなく心も温めてくれた。 後片付けをするハンソンさんをソワソワしながら手伝っていると、クスッと笑われた。 「すみません……つい、マシロさんみたいだなと思って……」 「マシロ?」 「『ホタル』のモデルです。マシロさんも隊長に散歩に誘われた時はそうして期待に尻尾を振りながら笑顔を堪えていたな……と思い出してしまって」 そうやって懐かしむハンソンさんの顔はとても優しい顔で、胸がチクチクした。 人の愛情で嫌な気分になるとか……僕ってなんて嫌な奴。 「すみません……嫌な気持ちにさせてしまいましたか?」 申し訳無さそうに顔を覗き込まれた。 顔には出していないつもりだったけど、尻尾は素直過ぎる程垂れ下がっていた。 こんな耳や尻尾なんて……本当にこんなもの……無ければ良いのに。 沈んだ気持ちでハンソンさんについて歩いた。 街道に戻り、暫く進むと向こう側から冒険者風の一団が歩いて来るのが見えて、慌ててフードを被ってハンソンさんの後ろに隠れるようにして歩いた。 「隠れる必要は無いですよ?同行者として俺がいるんですから、堂々としていて下さい」 手を繋いでくれてハンソンさんの横を並んで歩く。 すれ違い様にちらりとこちらを見られたけど、ハンソンさんの手を握りしめると大丈夫だという安心感があった。 「そんなにビクビクされると、俺が売人と疑われてしまいますよ」 クスクス笑うハンソンさんの声に顔を上げた。 「ごめんなさい」 ベータとオメガの組み合わせはそういう目で見られてしまうのか……そういうの込みで僕の同行者を引き受けてくれたハンソンさんには感謝しないと。 街道から脇にそれた小道へ進むと……小さな湖が見えた。 大きさは街の湖より小さいけれどキラキラと輝く湖面は虹色に光っていた。 ハンソンさんは湖の中からホタル石を拾って掌に乗せて見せてくれる。 様々な色の光を淡く放つその石は……『ホタル』の宝物。 外の世界を初めて見た『ホタル』に『フィル』から贈った、初めてのプレゼントだった。 『ホタル』の持つ『フィル』の瞳と同じ色のホタル石。 「……緑色のホタル石が欲しいです」 ハンソンさんは驚いた様に目を見開いたけど、すぐに微笑んで緑色のホタル石を探してくれた。 ハンソンさんの瞳の色のホタル石。 『ホタル』がお守りにしたように、僕もハンソンさんがずっと側で守って居てくれる様な心強さが欲しい……握りしめた掌がじんわりと温かくなった。

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