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噂の屋敷

とある街の高台に、立派な木のたくさん生い茂っている場所がある。 その木々を抜けたところに突如として見えてくる屋敷はこの辺りでは有名な獣人の名家で、その姓をテイラーという。その名の示す通り先祖は服の仕立屋で、今ではその事業を大きくすることに成功して莫大な資産を持つまでになった。一般的に獣人は商業では人間に劣ると言われているが、この家系はアルファ性が多く、一族全体の高い能力が今の現状を可能にしていた。 今、その屋敷を初めて目の前にした老人カダムはあまりの人気の無さに気味の悪さを感じていた。 ーここがあのテイラー家なのか?ー 思わず眉をひそめる。 年老いた人間のカダムにとってここまでの道のりは容易では無かった。しかも、一人で来たわけではない。彼の後ろにはオメガの人間が5人程いた。 途中で倒れる者、逃げようとする者、いきなり泣き出す者…そんなオメガ達を怒鳴り散らし、力尽くで引きずりながらやっと来たのだ。老いた体にはそれは随分堪えた。 だからこれが無駄足になるのだけは避けたい。 取り敢えず自分の訪問を知らせようと、大きな門に着けられた呼び鈴を鳴らした。 低い音が辺りに不気味に響く。 しばらく待ってみるが誰かが来る気配はない。段々と苛立ち始めてきた頃、やっと向こうから黒い何かが近寄って来た。 黒猫の獣人だ。 途端、カダムは人好きのする笑顔を貼り付けた。 「私カダムで御座います。以前お話していたオメガ等を連れて参りました。」 「遠いところをようこそいらっしゃいました。お疲れでしょう。中に入ってください。」 確かにここはテイラー家なのだと分かったカダムはほっと胸をなで下ろすと、乱暴にオメガ達を促した。 1人でいい。たった1人オメガが売れるだけで半年は仕事をしなくて済む。 何とかして買ってもらおうと、カダムは気合を入れた。

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